イスラエルジャズの次代を担う新星ピアニスト、エデン・ギアット
1999年生まれのイスラエルの新鋭ピアニスト、エデン・ギアット(Eden Giat)がデビュー作となる『Crossing the Red Sea』をリリースした。
アルバムタイトル“紅海を渡る”は、救済者モーセがイスラエルの民を率いて紅海を渡ったという『出エジプト記』に因む。そんなテーマだから、ごく自然にジューイッシュな旋律やリズムがモダンジャズに溶け込んでいるのは当然だ。エデンによると、これらの音楽は意図的に何かと何かを混ぜ合わせようとしたものではなく、ごく自然に自分の中から生まれたものだという。そして彼にとって音楽を生み出すプロセスとはモーセの救済に似た、束縛や痛みからの魂の解放なのだ。
いささか古典的で壮大すぎるテーマのようにも思えるが、彼自身に気負いはない。次々と淀みなく紡がれる即興演奏には中東音楽の成分もかなり強いが、そこに表面的な軽さや聴衆受けを狙った感じは一切なく、すべてが魂から放出された本物の響きがする。
もちろんこのサウンドはピアノのエデン・ギアットがひとりで作れるものではない。
今作はサックスのユヴァル・ドラブキン(Yuval Drabkin)、ベースのダヴィド・ミハエリ(David Michaeli)、そしてドラムスのニツァン・バーンバウム(Nitzan Birnbaum)とのアンサンブルも鉄壁で、全員が同じ方向を向いた理想的なバンドの音を鳴らしている。ドラムのニツァンとは随分昔から一緒に演奏をしていたようだし、気心の知れた仲間という感覚があるのだろう。こういうバンドは聴いていて本当に気持ちがいい。
華々しい経歴を誇る注目の新星
エデン・ギアットの父親はドラマーのドロン・ギアット(Doron Giat)。父の影響で2歳からドラムや打楽器を始め、5歳の頃に自ら願い出てピアノのレッスンを始めた。
クラシックピアノのコンクールでは3回の優勝経験があり、早くからブダペスト管弦楽団、イスラエル室内管弦楽団、アシュドッド交響楽団といったオーケストラのソリストとしても活躍。2013年に即興演奏と作曲を学びより自己表現力を高めるために名門テルマ・イェリン芸術学校に入学。2016年にはミクスチャーバンドのイエメン・ブルース(Yemen Blues)に参加しツアーを行い、その後の徴兵時には優れたミュージシャンのための特別プログラムに選別されている。
2019年に自身のカルテットを結成。ほぼ同時期にはサックス奏者のアロン・ファーバー(Alon Farber)が率いるイスラエルを代表するジャズアンサンブル、Hagiga に加入しアルバム『Reflecting on Freedom』を録音した。
Eden Giat – piano
Yuval Drabkin – tenor saxophone
David Michaeli – bass
Nitzan Birnbaum – drums