ラリー・バリオヌエボ、幼少時に別れた父親との再会の物語『1972』
アルゼンチンのSSW、ラリー・バリオヌエボ(Raly Barrionuevo)の2021年新譜『1972』。この4桁の数字は彼の生まれた年だ。このアルバムのコンセプトは彼が少年時代に聴いた思い出の歌の塊であり、幼少時に母親の浮気をきっかけに彼の元を去った父親に捧げられた個人的な作品でもある(アルバムのジャケットの“修復された”写真は、その複雑な家庭背景を物語っている)。
ラリー・バリオヌエボは2013年に亡くなった母親に捧げたアルバム『La Niña de los Andamios』をリリース後、父親を探す旅に出かけた。半世紀近い時を隔てた肉親との再会は会話の困難を伴うものだったが、ミュージシャンでもあった父親と一緒にギターを弾くことは難しくなかったようだ。最初に彼ら親子が弾いた曲がアトゥート・メルカウ・ソリア(Atuto Mercau Soria)作曲の「Zamba de la Añoranza」で、もちろん今作にも2曲目に収録されている。
その後父親は飲み過ぎて自制を失ったようだが、やはり次に話されたトピックは母親(父親にとっての元妻)についてだったそうだ。
この『1972』には、もし父親が自身のアルバムを作る機会があったのなら確実に収録されていたであろう曲が入っている。これらの音楽は親子の失われた時と絆を取り戻すためのものなのだ。
音楽的な観点では、本作はワルツやアルゼンチン・サンバ(zamba)のシンプルな曲調、主にアコースティックギターとピアノの伴奏で感情豊かに歌われる名曲群が収められておりアルゼンチン音楽入門としても最適な内容だ。もっとも有名な曲はラストの(15)「Alfonsina y el Mar」(アルフォンシーナと海)だろう。アルゼンチンの詩人アルフォンシーナ・ストルニ(Alfonsina Storni)が苦悩の末に46歳で海に還る直前に書かれた詩が元になった曲で、ここではラリー・バリオヌエボの悲痛な叫びのような歌が心に刺さる。
ラリー・バリオヌエボはアルゼンチン・フォルクローレを代表する歌手/作曲家。1995年に『El Principio del Final』でデビュー、伝統的な音楽を若者らしいモダンなスタイルにミックスし人気となった。これまでに15枚ほどのアルバムをリリースしている。