イスラエルジャズ最右翼、Nigun Quartet が奏でる純度100%ジューイッシュ・ジャズ

Nigun Quartet

ユダヤ教超正統派ジャズカルテット、Nigun Quartet

限りなく“イスラエル的”なカルテットが登場した。

ニグン・カルテット(Nigun Quartet)のニグン(Nigun, Niggun, Niggen)とはユダヤ教超正統派(ハシディズム)に伝わる旋律のこと。Nigun Quartetはハシディズムのメロディーを現代的なアレンジやジャズの即興演奏で時代に適応させる。メンバーは24歳のピアニスト、34歳のサックス奏者、49歳のベーシスト、そして53歳のドラマー。宗教的・民族的な立場からのジャズへのアプローチというのがカルテットの出発点だから、ユダヤの膨大な資料から膨らむインスピレーションも無限だ。

カルテットとしてのデビューアルバム『Nigun Quartet』の完成度は驚くべきものだ。
例えば(2)「Ashreinu」はハンガリーのユダヤ人の少年がアウシュヴィッツから辛うじて脱出したという物語に触発されている。彼らのライヴでは曲間にそのような曲にまつわるストーリーが語られ、聴衆は楽曲に込められたテーマをより深く知ることができる。実際に彼らのライヴを観た著述家/教育者バルフ・ヴェルマン(Baruch Velleman)は、「今までに出会った中で最高のカルテットのひとつ」だと興奮気味に綴っている

収録楽曲は多くがシンプルでどこか哀愁のあるメロディーに導かれるが、アンサンブルが熱を帯びダイナミズムが増してくると溜め込んでいたエネルギーが一気に解放される感がある。そのようなジャズの醍醐味が、ここまでユダヤ的なローカル感の中に完璧に落とし込まれている音楽といえば、ほかにダニエル・ザミール(Daniel Zamir)くらいしか知らない。

ストーリーテリングを交えたライヴの模様

Nigun Quartet プロフィール

サックスのトム・レヴTom Lev)はバークリー音楽大学とリモン音楽学校を卒業し、フランク・ギャンバレ(Frank Gambale)、ラルフ・ピーターソン(Ralph Peterson)、デイヴ・サミュエルズ(Dave Samuels)、イダン・ライヒェル(Idan Raichel)など国内外の様々なミュージシャンと共演をしてきた。リーダー作こそないものの、イスラエルジャズのシーンでは欠かすことのできない音楽家だ。

ピアノのモシェ・エルマキアス(Moshe Elmakias)も近年イスラエルの音楽シーンで注目される存在だ。2016年のウンブリア・ジャズフェスティバルや2017年の紅海ジャズフェスティバルなど世界中のフェスに出演している。直近では若手ジャズハーモニカ奏者アリエル・バルト(Ariel Bart)のアルバムでも見事なサポートを見せていた。今作でも(8)「Druze Debka」の暴走寸前のソロなど存在感のあるプレイが光る。

ベースのオフェル・シュナイダーOpher Schneider)は1990年代から活躍している。ステフォン・ハリス(Stefon Harris)、ドナルド・ハリソン(Donald Harrison)、アントニオ・ハート(Antonio Hart)、ビレリ・ラグレーン(Biréli Lagrène)といったミュージシャンとも共演。ニューヨークからイスラエルに戻ってからは敬虔なユダヤ教徒として日々を過ごすようになり音楽からはしばらく遠ざかっていたが、近年になってクレズマーなどのユダヤ音楽の研究に再び情熱を燃やし、ゆっくりとシーンに戻ってきた。

ドラムのヨッシ・レヴィYosi Levy)はリモン音楽学校を卒業した後、レゲエやアフリカ音楽に傾倒。イスラエル国内外でルーツ・アフリカ(Roots Afrika)、シェビー(Chevy)といったバンドと共演を行ってきた。

アルバム未収録曲「Way to Eden」のライヴ演奏

Tom Lev – saxophone
Opher Schneider – bass
Moshe Elmakias – piano
Yosi Levy – drums

Nigun Quartet
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