ブルーノート・レコードの遺産を敬意を込めて大胆にリミックスしたマカヤ・マクレイヴン新譜

Makaya McCraven - Deciphering The Message

幾重にも積み重ねられたジャズの歴史の新たなページ

ジャズクラブ「バードランド」の名物司会者ピー・ウィー・マーケットの有名なMCで始まる(1)「A Slice Of The Top」を聴けば、この作品がジャズの歴史とともに歩んできたブルーノート・レコーズが積み重ねてきた大いなる遺産と、アメリカの音楽文化へのリスペクトであることがすぐに感じられて胸が熱くなる。

マカヤ・マクレイヴン(Makaya McCraven)の新譜『Deciphering The Message』に収められた楽曲は、アート・ブレイキー、ハンク・モブレー、ホレス・シルヴァー、クリフォード・ブラウン、デクスター・ゴードンら既に亡くなった偉大な先人たちの音源のサンプリングと、その音楽の遺伝子を確かに受け継ぎつつ新しい時代を作るジョエル・ロスやジェフ・パーカー、マーキス・ヒルといった現代の音楽家たちによる世代を超越したセッションだ。

ハンク・モブレーの音源をサンプリングした(1)「A Slice of The Top」。冒頭ではピー・ウィー・マーケットの名MCも取り入れられている。

ブルーノートからリリースされた本作の制作にあたり、マカヤ・マクレイヴンには同レーベルの過去音源へのアクセス権が与えられた。同様に過去音源をサンプリングしたUs3のデビュー作『Hand on the Torch』(1993年作。──もう30年近くも前!!月日が経つのは本当に早い!)は当時のブルーノート最大のヒットとなり、マッドリブ(Madlib)も『Shades of Blue』(2003年)で同様の試みを行ったが、現代最高峰のドラマー/DJ(“ビートサイエンティスト”と呼ばれることを彼は好む)、マカヤ・マクレイヴンによる今作はその進化版・現代版といったところだろうか。過去音源のサンプリングと、現代のアーティストが新たに録音した演奏は絶妙に馴染み、前述したようにバーチャルなセッションを聴いているような錯覚に陥る。

(8)「Frank’s Tune」。ジャック・ウィルソン(Jack Wilson)の1967年の音源をもとに、マカヤ・マクレイヴンによる打楽器/鍵盤/ベース、ジェフ・パーカーのギター、デショーン・ジョーンズのフルートが加えられている。

今作は再構築され、短い小節でのループを主体とした音楽ではあるが、60年代以前のジャズの熱気の中に溺れるような感覚も生きている。この作品を聴いたリスナーのうち何割かはオリジナルの音源を再訪するかもしれない。そして、そうした過去の遺産の探究はマカヤ・マクレイヴンを含む音楽家たちが、ずっと夢中になってやってきた行為なのだ。

マカヤ・マクレイヴン 略歴

マカヤ・マクレイヴンは1983年フランス・パリ生まれ。アフリカ音楽に強い影響を受けたフリージャズの巨匠サックス奏者アーチー・シェップ(Archie Shepp)のバンドで活動したドラマーのステファン・マクレイヴン(Stephen McCraven)を父に、ハンガリーの歌手アグネス・ジグモンディ(Agnes Zsigmondi)を母に持ち、3歳の頃に米国マサチューセッツ州に家族で移住している。

シカゴを音楽活動の拠点とし、ヒップホップ文化の影響が色濃い2015年作『In The Moment』で注目を浴び、2018年には2枚組の大作『Universal Beings』で絶賛された。まさにカマシ・ワシントン(Kamasi Washington)らに並ぶ現在進行形のジャズを代表する音楽家。

エディ・ゲイル(Eddie Gale)原曲による(13)「Black Rhythm Happening」

Makaya McCraven – drums, keyboards, guitar, bass, percussion
Joel Ross – vibraphone
Marquis Hill – trumpet
Greg Ward – alto saxophonist
Matt Gold – guitar
Jeff Parker – guitar
Junius Paul – bass
De’Sean Jones – tenor saxophone, flute

オリジナル音源のプレイリストも公開されている

Blue Note Records によるオリジナル音源を含む今作の公式Spotifyプレイリストも公開されている。

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