中華と北欧の文化をつなぐチェコ出身SSW、バルボラ・シュウの素晴らしいデビュー作

Barbora Xu - Olin Ennen

古筝とカンテレで中国とフィンランドをつなぐチェコ出身SSW、バルボラ・シュウ

チェコ共和国に生まれ、台湾とフィンランドで生活するバルボラ・シュウ(Barbora Xu, 中国名:許寶靈)は中国の古筝(グーチェン, gu zheng)とフィンランドのカンテレというともにツィター属の撥弦楽器を操る珍しいシンガーソングライターだ。

デビューアルバムとなった『Olin Ennen』では、中国とフィンランドという約8,000kmも離れた地同士の文化の驚くべき共通項を、それぞれの地域で古くから用いられている同属の楽器を通して静かに描き出す。この作品は想像以上に素晴らしく、洋の東西に関係なく人間の根底には共通して音楽や芸術への欲求があることを強く感じさせてくれる。

古筝
古筝(出典:Wikipedia
小型のカンテレ
小型のカンテレ(出典:Wikipedia

アルバムタイトルの「Olin Ennen」はフィンランド語で“かつて私は”の意味。バルボラ・シュウは異なる言語や文化を学びながら、それらの文化的な共通点を見出し、歌と楽器で伝えようと試みる。収録曲の歌詞はフィンランドや中国に古くから伝わるものを引用しており、そのままフィンランド語や中国語で歌われている。

例えば中国語で歌われる(3)「Huánghè Lóu」は、中国・武漢にある黄鶴楼を歌った李白(Li Bai)による以下の詩に、バルボラ・シュウによって旋律がつけられたもの。東洋的なポルタメントも取り入れた古筝の演奏と、美しい歌声は彼女の中華文化への深い理解や敬愛を示している。

故人西辭黃鶴樓、
煙花三月下揚州。
孤帆遠影碧空盡、
唯見長江天長流。

──李白「黃鶴樓送孟浩然之廣陵」

wikipedia

続く(4)「Yītǐ-Liǎngmiàn」(一体两面)は歌のないインストゥルメンタル音楽となっており、意図的にチューニングを外した古筝の表現で、日本語では“表裏一体”と呼ばれる概念──異なると思われる二つの事象が、実は親密で切っても切れない関係であること──を静かに、だが的確に表現している。これはアルバムのコンセプトを示す象徴的な楽曲だろう。

中国の古筝で演奏するフィンランドの伝統的な子守唄(7)「Nuku nuku nurmilintu」。

太極拳をきっかけに中国文化を学んだバルボラ・シュウ

チェコで生まれたバルボラ・シュウ(本名:Barbora Silhanova)は17歳のとき太極拳に魅了され、その練習を積むうちに中国文化や精神性の奥深さに心酔するようになっていったという。2015〜2016年にかけて台湾で原住民族ブヌン族の音楽文化を研究するフィールドワークを行い、彼女は少しでも台湾現地の文化に近づくために自身の中国名:許寶靈を選び、同時期に古筝を台湾の教師We DedongとWu Juhuaに師事し学んだ。
2018年にフィンランドのトゥルク大学をブヌン族固有の音楽文化研究の専門家として卒業している。

自身が生まれ育った地から遠く離れた土地でのフィールドワークの経験から、彼女は音楽こそが人々の心を繋ぎ、魂を癒すものとしてプロになることを決意。同じルーツを持つ古筝とカンテレで弾き語るという独特のスタイルで音楽活動を開始した。

フィンランドに伝わる古い詩に曲をつけた(1)「Olin ennen otramaana」

Barbora Silhanova – kantele, guzheng, voice

Barbora Xu - Olin Ennen
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