魅惑のアラビック・ジャズロック。Ori Azani デビュー作
イスラエルのギタリスト、オリ・アザニ(Ori Azani)が自身のバンド“the Hijazz Messengers”を率いて録音したデビュー作『Sha’atnez』(2019年)が素晴らしい。
オリ・アザニはイエメン系の家系に生まれ、イスラエルやアラブ音楽、そして父親が持っていたソウルやR&B、ロックのレコードを聴きながら育ったという。このデビュー作ではそれらの音楽的な特徴が自然に融合し、独特の世界観に昇華されている。
(1)「Neimat Ha’oud Caravan」は1970年代から活動したイスラエルのミクスチャーバンド、Lehakat Tzliley Ha’oudの楽曲「Neimat Pop Oud」と、デューク・エリントンのジャズスタンダード「Caravan」をモチーフに組み合わせた曲。オリ・アザニのギターとジョー・メルニコヴ(Joe Melnicove)のフルートがメロディをリードし、ファンキーなベース&ドラムス、そして中東要素の強いパーカッションが見事なグルーヴを生み出す。
アメリカ合衆国の伝承曲「St. James Infirmary Blues」(セント・ ジェームス病院ブルース)を基にした(2)「St. Jameel Infirmary Blues」は物憂げでブルース色が濃い。キーボードのバレル・オヴド(Barel Oved)のモーグ・ソロ、ベースのヤナイ・アヴネット(Yanai Avnet)の巧みなエフェクト使いのソロも堪能できる。
女性歌手ニツァン・エシェル(Nitzan Eshel)が可憐なスキャットを聴かせる(3)「Store Bought Hummus」(フムスとは、イスラエルなど中東地域で広く食べられるヒヨコマメをペースト状にした料理)、(4〜5)「PPS Monster」はいずれもオリ・アザニのオリジナルで、伝統的なジャズに則りつつ革新を求める若者らしいテーマ、ハーモニー、サウンド処理が魅力的だ。
アルバムのラストに器楽曲(6)、そしてニツァン・エシェルのヘブライ語ヴォーカル入り(7)で収録された「Kerem Teiman」はポーランド生まれで後にパレスチナに移住したユダヤ人作曲家モシェ・ウィレンスキー(Moshe Wilensky, 1910 – 1997)の楽曲で、7拍子の複雑ながら魅力的なグルーヴと中東的な感傷が滲む旋律に異国の風が強く香る。
全体的にオリ・アザニのギターはテクニカルだがロックの影響も強く歪み系の音色を基本としており、ドラマーのガル・ペテル(Gal Petel)もロック色が強く、中東音楽、ジャズ、ロックの各要素がバランスよく融合した楽しい作品だ。
Ori Azani – guitar
Joe Melnicove – flute
Barel Oved – piano, keyboards
Yanai Avnet – electric bass, double bass
Gal Petel – drums
Omri Radai – percussion
Nitzan Eshel – voice