タールとフルートを操る異才イタイ・アルモン率いるカルテット
ペルシャの伝統楽器タール[*]とフルートを操るイタイ・アルモン(Itai Armon)を中心とするイスラエルのジャズ・カルテット、Brioのデビューアルバム『Brio』が素晴らしい。イスラエル〜ペルシャ周辺の伝統音楽やプログレッシヴ・ロックをジャズの語法に乗せた作品で、ピアノトリオと絡むタールの煌びやかで歴史の深みを感じさせる音色、技巧的かつオリエンタルなフルートが際立つ。
*タール(tar)…イラン、アゼルバイジャン、ジョージア、アルメニア、ウズベキスタンなどで伝統的に演奏されてきた3コース6弦のリュート属の楽器。8の字型の胴を持つ。
ピアノのロイー・ローターバッハ(Roee Lauterbach)、ベースのヨアド・ショシャニ(Yoad Shoshani)、ドラムスのレゲフ・アシュケナジ(Regev Ashkenazi)もまだ無名ではあるものの相当な手練れで、特にピアノのロイーは随所で飛び抜けた発想力とそれを充分に表現する技巧でのソロも聴かせる。
アルバムは全曲がカルテットのオリジナルで、いずれも非常にクオリティが高い。複雑な変拍子を多用しながらも気品があり、互いに呼応し昂ってゆく即興は非常にスリリング。イタイ・アルモンは(1)「Driving」ではタール、(2)「Jamo」ではフルート、と各曲で楽器を使い分け、いずれも天才的な演奏を披露する。ほかにもスピード感のある展開が魅力的な(8)「And Then」、幻想的なピアノの(9)「Clouds」、重いビートに派手なインド風エッセンスが混ざる(10)「Varanasi」など、充実した楽曲・演奏の素晴らしい作品となっている。
カルテットの中心人物、タールとフルートのイタイ・アルモン(1986年生まれ)は彼の音楽人生の最初はフルートを専門とし、西洋クラシック音楽やジャズを学んだ。その後イスラエル北部ガリラヤ地方の都市ツファットでユダヤ教神秘主義・カバラの研究に勤しむようになり、シナゴーグ(ユダヤ教の会堂)での祈りを通じてアラビア音楽のマカームへの関心を持ち、イスラエルやイランでタールを学びペルシャ音楽やアゼリ音楽への理解を深めていったという。
さらに彼はインドの音楽と文化を学ぶためにインドへと旅をしたり、ほかにはエジプト、ギリシャ、トルコにも旅をしてその音楽的体験や知識を増し、創造力の羽を伸ばしていった。中東音楽や中央アジアの音楽への深い造詣は2016年のソロデビュー作『Moments』や2019年の2nd『Yaara』でも窺い知ることができる。
BRIO :
Itai Armon – Persian tar, flute
Roee Lauterbach – piano
Yoad Shoshani – bass
Regev Ashkenazi – drums