家族を愛する全ての人へ。サックス奏者エリ・デジブリが奏でる年老いた両親への無形の愛

Eli Degibri - Henri and Rachel

アンリとレイチェル

アンリとレイチェル
酸素

私の方位磁石
無条件の愛
木のしっかりとした幹
青い空
撫でるように吹く風
喜び。

私は今、あなたたちに歌います
燃え上がるようなメロディーは、未来に向かって、永遠に響き渡ります
今、私たちは一緒にここにいるけれど、もうすぐ離別は避けられない
いつか必ず再会する日を信じて、私はいつもあなたたちを探し続けます。

その日まで、私は決してあなたのメロディーを口ずさむのを止めないでしょう
私の美しいパパとママ、アンリとレイチェル。

www.degibri.com

エリ・デジブリが年老いた両親に捧げる音の贈り物

先に引用させていただいたエリ・デジブリの言葉がすべてだ。このアルバムについて、それ以上の言葉は見つからないし見つける必要もないだろう。

イスラエルを代表するサックス奏者エリ・デジブリ(Eli Degibri)の新譜『Henri and Rachel』のジャケットに写るのは車椅子の母レイチェルと、彼女に優しく寄り添い語りかけるような父アンリの姿。

これは彼にとって世界一大切な二人への、愛情に満ちた親密な音の贈り物だ。
多くの人は、(1)「Henri and Rachel」のあまりに美しいメロディーに両親の姿を重ねることだろう。

(1)「Henri and Rachel」

本作はエリ・デジブリのオリジナル曲集としてはダウンビート誌から星5の最高評価を得た『Cliff Hangin’』(2015年)以来となる。録音はパンデミック直前の2020年3月。全曲がエリ・デジブリの作曲で、ピアノに2018年にセロニアス・モンク・コンペティションで優勝したトム・オレン(Tom Oren)、ベースにアロン・ニアー(Alon Near)、ドラムスにはトム・オレンのデビュー作にも参加していた若手エヴィアタール・スリヴニク(Eviatar Slivnik)(いずれもイスラエル出身)を迎えたカルテット編成となっている。

エリ・デジブリと両親の物語

エリ・デジブリ(ヘブライ語表記:אלי דג’יברי)は、第二次世界大戦後にイスラエルに移住してきたブルガリア出身の父アンリ、そしてイラン出身の母レイチェルの一人っ子として1978年にヤッファで生まれた。7歳の頃からマンドリンを弾き始め、3年後にジャズコンサートに参加した後からサックスに夢中になった。16歳の頃にはイスラエルの音楽シーンの中で既に逸材として注目をされはじめ、1997年に奨学金を得て米国のバークリー音楽大学に入学。1999年にハービー・ハンコックのバンドに抜擢され世界的に知られるようになった。

今作『Henri and Rachel』はエリ・デジブリの9枚目のアルバムだ。

彼の父アンリは2020年の秋に癌で亡くなった。
母レイチェルはパーキンソン病と認知症を発症しており、夫が亡くなった日付を覚えていなかったが、介護施設で息子がキーボードで(1)「Henri and Rachel」を演奏したとき、この5/4拍子の美しいメロディーを口ずさんだという。息子は彼女に尋ねてみた──「わぁ、美しいメロディーだね!なんていう曲?」するとレイチェルは「もちろん、“アンリとレイチェル”よ」と答えた。このとき、エリ・デジブリは“素晴らしい、自分の仕事は終わった”と思ったという。

Eli Degibri- tenor saxophone, soprano saxophone
Tom Oren – piano
Alon Near – bass
Eviatar Slivnik – drums

Eli Degibri - Henri and Rachel
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