真にイノヴェイティヴなアーティスト、Jean-Philippe Viret
これまでに音楽作品を通じて様々なアーティストとの“出会い”を経験してきた。
個人的な価値観に照らし合わせたときに、“良作”、ひいては“傑作”と呼べそうなものは結構な頻度で出会うのだが、どうやらそれらを超越した作品というものがこの世には存在しているらしい。
その、せいぜい1年から長くて2,3年単位の間に1枚あるかないかの頻度で出会う自分の人生における“超名作”とは、出会った瞬間に雷に打たれたような強い衝撃をうけ、そこから何ヶ月かは幾度もリピート再生し、事あるごとに自分の脳裏で再生され、ブームが過ぎてからも何年もの長きに渡り突然思い出したように聴き返すという類の作品である。
自分にとって、そんな数少ない“超名作”のひとつと呼べるものが2001年に出会ったジャン=フィリップ・ヴィレ(Jean-Philippe Viret)というフランスのベーシスト率いるトリオの『Considerations』という作品だった。タイトルからはまったくそんな印象はないのだけど、“物語の始まり”“航海の出発”を想起させた(1)「Madame Loire」から始まる怒涛の音楽は、それまで自分が聴いていたジャズ(当時はビル・エヴァンスやオスカー・ピーターソン、チック・コリア、ハービー・ハンコックやキース・ジャレットなどが大好きだった)のイメージを一夜にして一変させた。特に好きだったのが(6)「Le Bâtard」で、ドラマティックな展開や、唯一無二の個性的なプレイを聴かせるピアノのエドゥアール・フェルレ(Edouard Ferlet)や、腕が何本あるのか分からない超絶的なドラミングのアントワン・バンヴィーユ(Antoine Banville)との奇跡の連続のようにしか思えない三位一体の演奏に、冗談抜きで人間の創造力の頂点を見たような気になっていたものだ──。
その後も彼らトリオの2ndアルバム『Étant Donnés』を連載の次回が待ち遠しくてたまらない少年漫画のようにわくわくして待ち侘びたりしたが、やはり心理学で言われるように最初の出会いの衝撃(=第一印象)を超えることはなかなかに困難だというのは事実のようだった。
20年の月日を経て、ジャン=フィリップ・ヴィレが戻ってきた
ジャン=フィリップ・ヴィレのトリオはその後も何枚かのアルバムを出し、その間にドラマーがアントワン・バンヴィーユからファブリス・モアロー(Fabrice Moreau)に交代したりとあったようだが、2022年、ついにこれまでの軌跡を辿るような作品『In vivo』が世に公開された。
今作はこれまでに彼のジャズトリオに関わった音楽家が全員参加(といってもドラマー二人が交代しただけだが…)し、曲目も過去の代表曲を中心に組み立てた、所謂“集大成”的な作品だ。(1)「Dérives」、(4)「Pour el ho」、(8)「Par tout les temps」はアントワンとファブリスのツインドラム編成で、その他の曲はどちらかがドラムスを担当している。
収録曲はすべて過去作の再演で、移調や大胆なアレンジは施されておらず、ファンとしてはそれぞれの楽曲のリリース当時の興奮を追体験できる内容だ。個人的には前出の1stアルバムからの選曲が多いことも嬉しい。ジャン=フィリップ・ヴィレのベースは特にアルコで艶を増し、それぞれの即興に呼応する高度なインタープレイもより強固になる。彼らの特長である音楽的な意味での若さや攻めの強さに衰えは全く見られない。
……20年前、彼らの音楽は確かに完璧に新しかった。
今、ようやく時代が彼らに追いついてきた。
▷ IN VIVO – trio viret + │ 澤野工房
https://www.jazz-sawano.com/collections/new/products/mel666033
Jean-Philippe Viret – double bass
Edouard Ferlet – piano
Antoine Banville – drums
Fabrice Moreau – drums