リト・ビターレ & ルイス・サリナス 『Desde el Alma』
アルゼンチンのピアニスト、リト・ビターレ(Lito Vitale)と、ギタリストのルイス・サリナス(Luis Salinas)による極上のデュオ作品『Desde el Alma』。そろそろ人生の後期を迎える二人の天才的ミュージシャンが円熟の技で魅せる、言葉を超越する音楽の贈り物のように聴こえる素晴らしい作品だ。
アルバムタイトル曲である(1)「Desde el Alma」はロシータ・メロ(Rosita Melo)が1917年に作曲した古典的ワルツ。ここでは心を通わせた二人のデュオ・アンサンブルでバリエーション豊かに展開。所々でほかの名曲から拝借した聴き覚えのあるフレーズも登場し、感傷的な優雅さとも言うべき珠玉の音楽が奏でられる。
アルゼンチンを代表する名曲(3)「Alfonsina y el Mar」は、原曲の美しい旋律やハーモニーを大切に創造的な広がりを持たせたアレンジとアドリブでアルゼンチン・ジャズの底知れぬ魅力に引き摺り込む。
(5)「Malena」はオメロ・マンシ(Homero Manzi)作詞、ルシオ・デマーレ(Lucio Demare)作曲のアルゼンチン・タンゴの名曲。
イタリアのSSWブルーノ・マルティーノ(Bruno Martino)が作り、ジャズやボサノヴァの題材としても人気の(7)「Estate」ではルイス・サリナスはエレクトリック・ギターを弾き、リト・ビターレは空間的なシンセを重ねている。この曲でのみゲスト・ベーシストとしてネマ・アントゥヌス(Nema Antunes)が参加。
ゲストのフアン・サリナス(Juan Salinas)が歌う(8)「Mi Persona Favorita」はアルゼンチン音楽特有の開放的な美しさを湛えた曲。原曲はアレハンドロ・サンス(Alejandro Sanz)の楽曲で、「私の大好きな人」と言う意味の素敵なバラードだ。
交互にソロを取る素晴らしいピアニストとギタリスト。
こうも幸せな音楽は、他にまたとない。
ピアニスト、Lito Vitale 略歴
リト・ビターレは1961年ブエノスアイレス州ビヤアデリナ生まれ。母親のエステール・ソト(Esther Soto)は著名な音楽教師で、彼は幼少期の頃からその母から音楽教育を受けた。13歳の頃に近所のミュージシャンとMIAというバンドを結成。彼が率いるMIAは後に1970年代後期のアルゼンチンを代表するプログレッシヴ・ロックバンドとなり、リトはティーンエイジャーで既に同国を代表する鍵盤奏者/作曲家となった。
その後は古典的なフォルクローレやタンゴにも傾倒するなど自身の音楽性を拡張し、パット・メセニーやキース・ジャレットと並べて語られる存在となった。
ギタリスト、Luis Salinas 略歴
ルイス・サリナスは1957年ブエノスアイレス州モンテグランデ生まれ。南米の伝統的な音楽(ボサノバ、サンバ、ウルグアイのカンドンベ、サルサ、ボレロなど)とジャズを融合したスタイルで知られており、ガットギターとエレキギターの両方を演奏する。
ギターは独学で、最初は近所の友達からギターを借りて弾いていたが、ルイスがあまりに長く練習するのでその友達はやがて彼にギターを貸すことを拒否するようになったというエピソードも。
ジョー・パス、ウェス・モンゴメリー、オスカル・アレマン、バーデン・パウエルなどのレコードを熱心に研究し、ギターをマスターしていった。
Lito Vitale – piano, keyboards
Luis Salinas – acoustic guitar, electric guitar, voice
Guests :
Nema Antunes – electric bass (7)
Juan Salinas – electric guitar, vocal (8)