米国のトロンボーン奏者ライアン・ケバリーとパウリスタ3人が奏でる“街角クラブ”への讃歌

Ryan Keberle - Sonhos da Esquina

ライアン・ケバリー、“街角クラブ”への讃歌

アメリカ合衆国のトロンボーン奏者/作曲家ライアン・ケバリー(Ryan Keberle)がかねてより熱い関心を寄せていたブラジル・ミナスの音楽に自身のカルテット、ライアン・ケバリーズ・コレクティヴ・ド・ブラジル(Ryan Keberle’s Collectiv do Brasil)名義で取り組んだアルバム『Sonhos da Esquina』(2022年)。ミナス音楽を意識したライアン自身のオリジナルのほか、“街角クラブ”を代表する巨匠ミルトン・ナシメント(Milton Nascimento)やトニーニョ・オルタ(Toninho Horta)の名曲を演奏しており、ミナス音楽やジャズ・トロンボーンのファンには聴き逃せない作品となっている。

ライアン・ケバリーは1980年にジャズトランペッターの父とピアノ教師の母の間に生まれた。
マリア・シュナイダー・オーケストラに15年以上在籍したり、グラミー賞を受賞した7枚の作品に参加するなどNYのジャズシーンでは欠かせない存在。数十年前に初めてエリス・レジーナを聴いたときからブラジルの音楽に恋焦がれ、2017年にハンターカレッジでの教職の休暇を取りブラジルに旅行し、そこで今作で共演することとなるピアニストのフェリペ・シルヴェイラ(Felipe Silveira)、ベーシストのチアゴ・アウヴェス(Thiago Alves)、ドラマー/パーカッショニストであるパウリーニョ・ヴィセンチ(Paulinho Vicente)に出会った。彼らはブラジルの先人たち──イヴァン・リンス、エドゥ・ロボ、それにミルトンやトニーニョなど──の洗練された音楽やジャズへの情熱について語らい合い、それからすぐにカルテットを組んでサンパウロで数回のギグを行った。こうして地理的・文化的な距離を超えた友情が芽生え、わずか1年後に再びブラジルを訪れたライアンと3人のパウリスタはミナスの音楽への愛情をアルバムという形に残すことにしたというわけだ。

(1)「O Cio da Terra」

アルバムの幕開けはミルトン・ナシメント作曲/シコ・ブアルキ作詞による名曲(1)「O Cio da Terra」。
大地の恵みと労働者たちの姿を描き、土埃の舞うような素朴さとあまりに奇妙で美しく洗練された和音とリズムが同居するこの曲を4人の音楽家たちは見事なアレンジと演奏で披露する。

ライアン・ケバリーのオリジナル(3)「Carbón Neutral」

アルバムのハイライトとなるのはライアン・ケバリーの短いオリジナル曲(4)「Sonhos da Esquina(街角の夢)」のイントロダクションから、半世紀前のミルトン・ナシメント&ロー・ボルジェスのまるで夢のような名曲(5)「Clube da Esquina 2」へと一気に時空を遡る。トロンボーンとベースによるユニゾンはピアノのハーモニーの中を遊泳するようだ。
つづくトニーニョ・オルタの(6)「Aquí, Oh!」はミナス音楽の真骨頂だ。軽快に大地を、大空を駆ける。

表情豊かなトロンボーンの音色にはある種のサウダーヂがあり、輝かしいミナスのサウンドを現代にいきいきと蘇らせた。

Collectiv do Brasil :
Ryan Keberle – trombone
Felipe Silveira – piano
Thiago Alves – bass
Paulinho Vicente – drums

Ryan Keberle - Sonhos da Esquina
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