ソン・イ・ジョン&ヴィニシウス・ゴメス、デュオ・デビュー
NYで活躍する韓国出身シンガーソングライター、ソン・イ・ジョン(Song Yi Jeon)と、ブラジル・サンパウロ出身のギタリスト/作曲家ヴィニシウス・ゴメス(Vinícius Gomes)の双頭名義の新作『Home』。ギター1本と声という最低限の編成ながら、二人の圧倒的な技巧と表現力で聴かせる素敵な作品だ。
アルバムには二人のオリジナルのほか、ジャズや南米の現代のスダンダードともいうべき良曲のカヴァーを収録。巧みなギター一本を伴奏に、スキャット中心の超絶的で美しいヴォーカルが素晴らしい。ヴィニシウス・ゴメスは後述の1曲を除きクラシックギター(ガットギター)を弾いており、ソン・イ・ジョンの圧巻のスキャットに時にユニゾンしたり、時にぴったりと寄り添い支えたりと完璧なサポート。ギターのサウンドに乗せて伸びやかに歌うソン・イ・ジョンの声も素直で飾り気がなく美しい。
カヴァーの選曲も秀逸だ。キース・ジャレットによる美しく深い叙情性を持った(3)「Prism」、アルゼンチンの巨匠カルロス・アギーレ作の超絶技巧の人気曲(6)「Milonga Gris」、ジャズピアニストのジミー・ロウルズによる(9)「A Timeless Place」(この曲のみ、ヴィニシウス・ゴメスはエレクトリック・ギターを弾いている)、ブラジルの伝説的音楽家ドミンギーニョスによる軽快なフォホー(10)「Nilopolitano」は、どれもあまり有名ではないかもしれないがそれぞれに絶妙な味わいがあり、素晴らしいアレンジと演奏・歌唱で聴かせてくれる。
地球の反対側で生まれ、意気投合したデュオ
韓国出身のソン・イ・ジョンはオーストリアのグラーツにある音楽芸術大学でクラシック作曲を学び、スイスのバーゼルにある音楽大学と米国ボストンにあるバークリー音楽大学でジャズ・ヴォーカルを学び、モダン・ジャズをベースに複雑なハーモニーや変拍子を多用する独自の音楽を構築してきた。
2015年に自身のクインテットでデビューアルバム『Straight』をリリース。以降もNYを拠点に活躍を続けている。
ヴィニシウス・ゴメスはサンパウロのシンガー、ジジ・ポッシ(Zizi Possi)との活動などで知られる。サンパウロ交響楽団やブラジルのジャズ・シンフォニカとの共演など、ジャズ、クラシック、ブラジル伝統音楽など幅広く活動するギタリスト/作編曲家だ。2017年にデビュー作『Resiliência』をリリースしている。
地球の反対側出身の二人はスイスで活動している頃に知り合い、まったく異なるバックグラウンドを持ちながらも、音楽、とりわけジャズという共通言語で繋がり音楽性の一致から意気投合。その後は地理的な制約がありながらもセッションを重ね、アルバムを完成させた。「Home」というタイトルにはどこに居ても普遍のアイデンティティという意味と、出自こそ違えど共通の価値観や美的感覚で重なる部分について考えたいという想いが込められている。
Song Yi Jeon – voice
Vinicius Gomes – guitar