メキシコの新星SSW、シルバナ・エストラーダのデビュー作
チャーリー・ハンター(Charlie Hunter)との共演で知られるメキシコのフォーク・ポップ・シーンの新星シルバナ・エストラーダ(Silvana Estrada)のソロ・デビュー作 『Marchita』は、近年ますます注目されるラテン音楽の中でも際立って退廃的な美しさを湛え、それがゆえに親近感を抱いてしまう傑作だ。
メキシコの伝統楽器クアトロ(カヴァキーニョやウクレレよりも大きく、ギターより小さい4弦の楽器)を弾きながら歌うスタイルで、親しみやすい作曲センスと、自然体ながらスパニッシュの豊かな歌唱力・表現力を誇るシルバナ・エストラーダの登場は大きな話題となり、アルバムは大ヒット、2022年ラテングラミー賞では最優秀新人賞を獲得している。
(1)「Mas O Menos Antes」からメキシコの伝統音楽に根ざしたシンプルなコード進行とどこか郷愁を誘うオーガニックな歌唱が魅力的だ。ピアノやチェロを交えた(2)「La Corriente」、後半にかけて盛り上がりを見せる(3)「Te Guardo」など、前半から傑作を確信させる完璧な構成。
2021年7月末に先行公開されたシングル(6)「Marchita」はクアトロの弾き語りで始まり、中盤からはチェロやヴァイオリンも参加する美しいアレンジ、そして見事なヴォーカルの表現力に感嘆する。
各曲が少しずつ楽器編成などで多彩さを見せつつ、全編にわたって一貫した芯の強さを感じさせる。
アルバムのラスト(11)「La Enfermedad Del Siglo(世紀の病)」はトランペットとオルガンがフィーチュアされたインストゥルメンタルとなっており、メキシコが抱える政治的苦難や世界的に問題となっている社会的な分断への彼女自身の内なる切実な声が伝わってくるようでもある。
彼女はこの作品について、次のように語っている:
『Marchita』はとてもダークなアルバムだけど、癒しについて語っています。私たちが最も純粋な本質で求めているのは、生まれ変わること、トンネルの終わりに光を見つけることです。
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2022年ラテングラミー賞の新人賞を獲得
シルバナ・エストラーダは1997年メキシコ・ベラクルス生まれ。両親は共に弦楽器製作者で、彼女もまた幼い頃から音楽を演奏し始め、後にメキシコの伝統的な4弦楽器クアトロを手に故郷のさまざまなバーで演奏するようになった。ベラクルサーナ大学のジャズ・プログラムで学び、同じ頃に米国のギタリスト、チャーリー・ハンター(Charlie Hunter)と出会い、2枚のアルバムで共演を果たしている。
影響を受けたミュージシャンとして、サラ・ヴォーンやビリー・ホリデイといった米国のジャズ歌手や、チャベラ・バルガス、メルセデス・ソーサ、トーニャ・ラ・ネグラといったラテン圏の歌手の名を挙げている。
今作『Marchita』は高く評価され、彼女は第23回ラテングラミー賞で最優秀新人賞を受賞した。