ヘルゲ・リエン&クヌート・ヘム、デュオ2作目『Villingsberg』
2018年のデュオ作『Hummingbird』も好評を博したノルウェーのピアニスト、ヘルゲ・リエン(Helge Lien)と同国のスライド・ギター奏者クヌート・ヘム(Knut Hem) による新作『Villingsberg』が届いた。カントリーやブルーグラスのフィーリングを持ちながら、やはり曲調や音は北欧そのものの装いで、前作がアメリカーナならぬ“ノルディカーナ(Nordicana)”と評されたという逸話も頷ける。
収録曲はヘルゲ・リエン作曲の(7)「Konkylien」、米国のバンジョー奏者ベラ・フレック(Béla Fleck)による(10)「Big Country」を除きすべてクヌート・ヘムの作曲。
デュオのアンサンブルは対等で、それぞれがソロを弾いたりバッキングに回ったりと自在に役割を変える。そんな中でも表現力の豊かなクヌート・ヘムのスライド・ギターはやはり圧倒的な存在感を示し、今作をほかにはない個性的な作品として強く印象に残る作品に仕上げている。倍音多め、スライドやヴィブラート多めのドブロのサウンドの魅力が満載で、ピアノとのデュオという少人数編成だからこそじっくりと堪能できるのが嬉しい。
一方のヘルゲ・リーエンもいつもの淀みないソロもたっぷりと聴かせてくれる。アメリカーナ、北欧ジャズの幸せな邂逅といっても過言ではない、素晴らしい音楽だ。
アルバムタイトルの「Villingsberg」はスウェーデンに2005年まで存在していた村の名前のようだ。ここは2000年には52人の住民が住んでいたが、小規模な集落として認められる人口50人を下回ってしまったため、地図から削除されてしまった。タイトル曲(3)「Villingsberg」は確かに、そうした郷愁感・ノスタルジアが想起される。
Helge Lien & Knut Hem プロフィール
ピアノのヘルゲ・リエンは1975年生まれ。北欧らしい透明感のある作曲とピアノのタッチ、メロディアスで美しい即興が持ち味。オスロのノルウェー音楽アカデミーで音楽を学び、2000年にソロ作『Talking to a Tree』でデビュー。1999年に結成した自身のトリオのデビュー作『What Are You Doing the Rest of Your Life』(2001年)はその豊かな叙情性で日本でも人気となった。
妻が南麻布のノルウェー大使館に勤務しており日本語にも精通していたため、ヘルゲも日本贔屓なことで知られている。楽曲やアルバムにも度々日本語タイトルをつけており、『Natsukashii』(2011年)、『Guzuguzu』(2017年)というアルバムも。
ドブロ・ギター/ワイゼンボーン・ギター奏者であるクヌート・ヘムは1963年生まれ。ノルウェーのブルースマン、ライデル・ラーセン(Reidar Larsen)のバックバンド The Storytellersのドラマーとしても知られている。
ドラマーとして音楽のキャリアをスタートさせたが、1980年初頭に初めて米国のデヴィッド・リンドレー(David Lindley)が弾くワイゼンボーンに衝撃を受け(当時はこの楽器がワイゼンボーンだとは知らず、それを知ることになるのは15年後だったという)、のちにノルウェーでカントリー・ミュージックがブームになると彼もドラムではなくドブロを演奏するブルーグラスに夢中になった。
最近は作曲のほとんどをiPadのKORG Gadgetで行い、録音とミキシングにはCubase 3を使用していると語っている。
Helge Lien – piano
Knut Hem – Dobro & Weissenborn guitar