アルゼンチンの古楽器アンサンブル、ラ・キメラ新譜
ブエノスアイレス出身のテオルボ奏者エドゥアルド・エグエス(Eduardo Egüez)率いるアンサンブル、ラ・キメラ(La Chimera)が素晴らしい。古楽器を多く用いた編成からクラシックにカテゴライズされてはいるが、その音楽性はジャンルを超え、多くの音楽を愛する人々の心に刺さるだろう。2021年のアンサンブル創立から20年を迎えた彼らが放つ新作『Iguazú』では、作者不詳の伝承曲からエイトル・ヴィラ=ロボス、エグベルト・ジスモンチ、アントニオ・カルロス・ジョビンといったブラジルのここ1世紀の最重要音楽家の楽曲、ペドロ・ラウレンスやエドゥアルド・ファルーといったアルゼンチンの巨匠たちの楽曲を幅広く取り上げ、多彩な表現を試みている。
アルバムはアルゼンチンの作曲家、アリエル・ラミレス(Ariel Ramírez, 1921 – 2010)の(1)「Antiguos dueños de las flechas」で幕を開ける。小鳥たちの歌・口琴の特徴的な音色に導かれ、インディアン・フルートやヴィオラ・ダ・ガンバによる演奏を背景にソプラノ歌手バルバラ・クサ(Bárbara Kusa)がプリミティヴと洗練の両方を兼ね備えた魅惑の歌声を聴かせてくれる。
メゾソプラノのマリアナ・レウェルスキ(Mariana Rewerski)も加わったバロック/教会音楽的な美しい伝承歌を数曲挟み、ミルトン・ナシメントの歌唱で広く知られるブラジル・ミナスジェライスの伝承歌(5)「Calix Bento」が軽やかに歌われる。
(6)「Karatê」はエグベルト・ジスモンチ(Egberto Gismonti)の名曲。ここではインディアン・フルート、チェロやヴィオラ・ダ・ガンバ、コントラバスが代わる代わる旋律を担い厳かな祝祭を演出。エドゥアルド・エグエスの編曲家としての秀でた才能を感じさせる。
エイトル・ヴィラ=ロボス(Heitor Villa-Lobos, 1887 – 1959)の(7)「Bachianas Brasileiras No. 5(ブラジル風バッハ第5番)」より「Ária」も今作のハイライトのひとつだろう。古楽器と美しいソプラノを中心に演じられる音楽は、何度聴いても心の鳥肌が立つ。
続く(8)「Oración del remanso」はアルゼンチンを代表するSSWホルヘ・ファンデルモーレ(Jorge Fandermole)の曲。メイン・ヴォーカルを担うインディアン・フルート奏者であり男性歌手ルイス・リゴウ(Luis Rigou)の優しい歌唱が特に印象的だ。
アントニオ・カルロス・ジョビン(Antônio Carlos Jobim, 1927 – 1994)の代表曲である(10)「Aguas de Março」は、本作の中でもっともポップな1曲だ。リハーモナイズなどの凝ったアレンジは加えず、原曲をほどよくアレンジしアンサンブル・ラ・キメラのカラーに染め上げたボサノヴァはどこまでも幸せで、今作の多様性を象徴する仕上がりとなっている。
LA CHIMERA :
Eduardo Egüez – direction, theorbo, guitar, percussion
Bárbara Kusa – soprano
Mariana Rewerski – mezzosoprano
Luis Rigou – vocal, indian flute
Margherita Pupulin – violon
Lixsania Fernández – vocal, viola da gamba
Sabina Colonna-Preti – viola da gamba
María Alejandra Saturno – cello, viola da gamba
Leonardo Teruggi – contrabass
Carlotta Pupulin – harp
Juan José Francione – charango, guitar, percussion
Bïa Krieger – vocal