カーボベルデのSSWマリオ・ルシオ、遠い海の彼方への希望と故郷への郷愁を歌う『Migrants』

Mário Lúcio - Migrants

カーボベルデを代表するSSWマリオ・ルシオの新譜

ルゾフォニア(ポルトガル語圏)の最重要ミュージシャンの一人であるカーボベルデのシンガーソングライター、マリオ・ルシオ(Mário Lúcio)の2022年新作『Migrants』。“移民”を意味するタイトルの本作は、国境を越える彼の音楽を象徴的に示している。

このアルバムは人々の旅の美しさを歌い、戦争や迫害、飢餓から逃れる人々の悲しみを歌い、何世紀にもわたって新天地を目指し海を渡り、その度に命を落としてきた人々に敬意を表すものだという。楽曲にも様々な国の音楽が少しずつ影響しており、カーボベルデの伝統的な音楽を出発点としジャズ、ロック、ブラジル音楽、アフリカ音楽、ファド、レゲエなどの要素が絡み合う。丁寧に練られたサウンドは落ち着いたマリオ・ルシオのヴォーカルとよく溶け合い、遠い海の彼方への夢を膨らませ、そしてほんの少しの故郷への郷愁も滲む。

(2)「Migrants (Shakespearience)」

今作は木管やアコーディオンの温かいアレンジが印象的な(1)「Mi So」で幕を開ける。
アルバムからの最初のシングルである(2)「Migrants (Shakespearience)」は2008年にカナリア諸島の近くで観光客を乗せたクルーズ船によって発見された、移民を乗せた漂流する小さなボートのニュースに触発され書かれた曲で、それから14年が経った今でもそうしたニュースが後を断たず、毎年何千人もの人間が命を落としている大西洋の現状を嘆く。

カーボベルデの伝統的なモルナの形式をとりつつも、短調と長調を自在に行き来し斬新なラテン感のある(7)「Babosa」や、どことなくブラジルのフォホーを感じさせる(10)「Adios Amigo」なども印象的。
どこまでも心に響く、マリオ・ルシオの人柄の表れた魅力的な作品だ。

苦労人として育ち、音楽家だけでなく政治家/小説家/画家としても才能を発揮

マリオ・ルシオは1964年サンティアゴ島北部のタラファル生まれ。12歳のときに父を、15歳の時に母を亡くし、7人の兄弟とともにカーボベルデ軍の兵舎で育った。1984年、キューバ政府の奨学金を得てハバナで法律を学び、6年後にカーボベルデに戻り弁護士となると、1992年、同国の文化大臣文化顧問に就任。1996年から2001年までカーボベルデ議会の議員を務め、2011年から2016年まで、カーボベルデの文化芸術大臣を務めた。

音楽は独学で、1992年に自身のバンド、シメンテラ(Simentera)を創立。『Raiz』(1995年)をはじめ2005年の解散までに4枚のアルバムをリリースし、同国でもっとも知られるグループとなった。ソロでは『Mar e Luz』(2004年)を皮切りにこれまでに今作を含め6枚ほどのアルバムをリリースしている。彼はまた、セザリア・エヴォラ、ナンシー・ヴィエイラ、マイラ・アンドラーデなど、数多くのカーボベルデのアーティストに楽曲を提供している。

画家としても活動し、いくつかの展覧会に参加している。また、小説家としても才能を発揮し、2009年に出版された小説『Testamento(遺言)』は、カルロス・デ・オルヴィエイラ賞を受賞し、ポルトガルでベストセラーとなった。2014年に発表した次作は言語の歴史を描いた『Biografia do Língua』で、2015年にミゲル・トルガ文学賞を受賞している。

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