セルビアの才女マヤ・アルヴァノヴィッチ、叙情性の中に激情を秘めたピアノトリオ+α

Majamisty Trio - Wind Rose

セルビアのピアニスト、マヤ・アルヴァノヴィッチの4thアルバム

セルビア・ベオグラード出身のピアニスト/作曲家マヤ・アルヴァノヴィッチ(Maja Alvanovic)が率いるピアノトリオ、マヤミスティ・トリオ(Majamisty TriO)の2022年作『Wind Rose』。大きな話題を呼んだ2012年のデビュー作『Mistyland』から数えて4枚目の作品となる今作でもミステリアスな雰囲気を纏い、抒情的だが内面が激しく燃える独創的な音楽を聴かせてくれる。

2010年のトリオ結成時からのベーシストエルヴィン・マリナ(Ervin Malina)と、2018年からトリオに参加するドラマーラヴ・コヴァチ(Lav Kovač)とのトリオを核に、数曲でヴォーカリストのアネタ・ゲオルク(Aneta Georg)とクラリネット奏者のウルリッヒ・ドレクスラー(Ulrich Drechsler)がゲスト参加。力強い物語性と、高い即興性を兼ね備えた聴き応えのある作品に仕上がっている。

9分間のなかで様々な展開を見せる(1)「The City of Jewels」から、マヤ・アルヴァノヴィッチと彼女のトリオの並外れた才能に驚かされる。思慮深いイントロから会話を交わすようなアンサンブルへと移行し、中間部からは明確な6/8拍子で演奏は徐々に熱を帯び激しさを増していく。後半はエルヴィン・マリナのベースとラヴ・コヴァチのドラムスが火を吹くような激情の絡み合いを見せ、リスナーを引き摺り込む。

(1)「The City of Jewels」。服をつくる穏やかなMVの映像とは裏腹に、音楽は感情を熱く掻き立てる。

(3)「Echoes」など数曲に入るクラリネットとヴォーカルも効果的。(7)「Long Embrace」では憂いを帯びた曲調に加わる女声コーラスとバセットホルン(クラリネット属の古楽器)が抒情的だ。

アルバムにはマヤ・アルヴァノヴィッチによる4曲をはじめとしたメンバーのオリジナルの他、U2のカヴァー(5)「With or Without You」も収録。
(6)「My Father’s New Guitar」はマヤの父ブラザ・アルヴァノヴィッチ(Blaza Alvanovic)との共作曲となっている。

Maja Alvanovic プロフィール

マヤ・アルヴァノヴィッチは1974年生まれ。父親はコントラバス奏者で、幼い頃からクラシックやジャズが身近にあったという。
クラシック音楽からキャリアをスタートさせ、ベオグラードに次ぐセルビアの文化的拠点であるノヴィ・サドのノヴィ・サド大学に在学中、ピアノデュオ「パガニーニ」のメンバーとして全国大会で数々の優勝を果たした。ソリストとしても1997年にベオグラードで開催された第1回EPTAシューベルト・コンクールで3位を獲得するなど実績を残している。

大学や高校でピアノを教える傍ら、自らも演奏家として活動。音楽家としての転機はアゴラ・アンサンブルでポルトガルのファドを探求したことから始まった。この経験は自然発生的な即興音楽表現というより大胆なアプローチへの傾倒を彼女にもたらし、2010年にジャズ・ピアノトリオをベーシストのエルヴィン・マリナ(Ervin Malina)とドラマーのイストヴァン・チク(Istvan Cik)と共に結成。デビュー作『Mistyland』は日本でも新たなヨーロッパ・ジャズとして一部で話題となった。

ピアニスト/作編曲家として、2015年より女性のジャズを応援するプロジェクト、New Spark Jazz Orchestraに参加している。

(8)「Wind Rose」

Majamisty TriO :
Maja Alvanović – piano
Ervin Malina – double bass
Lav Kovač – drums

Guests :
Aneta George – vocal
Ulrich Drechsler – bass clarinet, basset horn

Majamisty Trio - Wind Rose
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