優雅さの中にユーモアもあるドラムレスのカルテット
スイス出身のフルート奏者/作曲家ベン・ザーラー(Ben Zahler)を中心としたカルテット、エイト・オクトパイ(8 Octopi)によるデビュー・アルバム『Errors in Disguise』がリリースされた。バンドにはスイスのジャズシーンで傑出したヴォーカリストであるイザベル・リッター(Isabelle Ritter)と、最高レベルの技巧を持つ優れたジャズ演奏家であるピアニストのヤニス・オビオールズ(Iannis Obiols)、ベーシストのイリヤ・アラブシェフ(Ilya Alabuzhev)を擁し、軽やかでユーモラスなジャズを聴かせてくれる。
ベン・ザーラーとイザベル・リッターは、別のピアニストとベーシストとともに2018年に「Ben Zahler’s Songgoing」というグループ名義で『Quietly Cold』を出しているが、ヴォーカルとフルートが対等に張り合っていた前作と比べると、今作はよりイザベル・リッターの声にフォーカスし、ピアノとベースも軽妙で、よりインタープレイ重視になった印象を受ける。
楽曲はすべて英語詞で歌われる。グループ名にある「octopi」はタコ(octopus)の複数形として用いられる言葉だが、タコの複数形は正しくは「octopuses」らしく、octopiはギリシャ語由来のoctopusに誤ってラテン語式の変化を適用してしまったもの。そんな莫迦莫迦しいエピソードも(1)「Eight Octopi」では歌われている。
ドラムレスの編成だが、ピアノとベースは有機的なグルーヴを担い、その上で軽やかに女声ヴォーカルとフルートが舞い、独創的な音楽観で魅せる。
シンガーのイザベル・リッターは、自然を愛する庭師としての顔も持つという。
確かに彼女の歌やバンドのアンサンブルからは、ラベンダーの柔らかで優美な香りが漂ってくるようだ。
8 Octopi :
Ben Zahler – flute
Isabelle Ritter – vocal
Iannis Obiols – piano
Ilya Alabuzhev – bass