フランスの革新的ミュージシャンのデュオ、IKIRU が選んだ“エリック・サティ再訪の旅”

IKIRU plays Satie

テナーサックスとピアノのデュオ、IKURU によるサティ曲集

黒澤明の『生きる』に触発されたユニット名をもつフランスのサックスとピアノのデュオ、IKIRU。『生きる』の主人公と同じように健康上の問題を抱えるサックス奏者のファブリス・トゥイヨン(Fabrice Theuillon)が新作で選んだ題材は、それまでの音楽の常識を覆し、現代的な音楽の礎を築いたエリック・サティ(Éric Satie, 1866 – 1925)だ。

『IKIRU plays Satie』は、サティの「グノシエンヌ」や「ノクチュルヌ」といった代表作のほか、彼のあまり知られていない楽曲にも光をあてるプロジェクト。テナーサックスのファブリス・トゥイヨンはクラシックからジャズ、ヒップホップまで横断的で、Wolphonicsを率いての2018年のジャズ・ヒップホップ作品『The Bridge』などで知られる革新的な音楽家だ。一方のピアノのイヴァン・ロビリヤール(Yvan Robilliard)もクラシックで研鑽を積んだ卓越したピアノ奏者でありながら、モーグ・シンセサイザーやハモンドオルガンなどでの表現も追求するアーティスト。

そんな彼ら二人のデュオ作だが、今作は驚くほどに静謐なアコースティック作品で、禅のような雰囲気すら漂う。(7)「Gnossienne, n°4」(グノシエンヌ第4番)ではピアノのアルペジオなど、一部に意識的に聴かなければ分からないほどのモーグ・シンセサイザーの音が重ねられており、それすらもごく自然で、サティが提唱したように空気に馴染む環境音楽という精神性も潜んでいる。その一方で(9)「Nocturne, n°3」(夜想曲第3番)のように徐々にヒートアップする即興演奏──それでも“抑制的”と言えるかもしれないが──もあり、BGMとして聴くだけでは勿体無いアーティスティックなアルバムとなっている。

(4)「Aubade」はサティらしい無調性音楽だが、ここでのアレンジも見事で、表情豊かな現代ジャズに昇華されている。

アルバムはエリック・サティの成功を確実にした彼の最初のピアノ作品、「ジムノペディ第1番」の瞑想的な演奏で静かに幕を閉じる。

(13)「Gymnopédie, n°1」(ジムノペディ第1番)。シンプルな原曲をほぼ忠実に再現したアレンジ。

Fabrice Theuillon – tenor saxophone
Yvan Robilliard – piano, Moog

IKIRU plays Satie
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