クラシック、ジャズ、民族音楽に影響されたトルコの姉弟デュオ
ケマンチェ奏者のナーメ・ヤルキン(Nağme Yarkın)と、ピアニストのバトゥライ・ヤルキン(Baturay Yarkin)の姉弟によるトルコのデュオ、ヤルキン・デュオ(Yarkin Duo)による『One』(2017年)という素敵なアルバムを聴いた。
Apple Musicではこのアルバムのジャンルは「オズギュン」(Özgün)とされている。正直、初めて耳にする音楽のジャンルだ。調べてみると、オズギュンとは“トルコの民族音楽に現代音楽の要素を加えて現代的に拡張したもので、叙事詩あるいはプロテスト・ソングの特徴を持つ”と書かれている。以前バトゥライ・ヤルキンのリーダー作『Su』──民族音楽や西洋クラシックの要素が入った傑作のジャズ・アルバム!──を気に入っていたこともあり、聞き慣れないジャンルにも身構えずに聴いてみると……、これが、ものすごく良い!!すぐに気に入ってしまった。
姉ナーメが弾くケマンチェはペルシャからトルコ、ギリシャまで広く演奏されている伝統的な擦弦楽器で、ヴァイオリンの源流ともなった楽器である。その音色はヴァイオリンよりも素朴なふくよかさがあり、何とも温かい。
弟が弾くピアノも実に素晴らしい。クラシックの素養を基に、時には縦横無尽に鍵盤の上を即興で踊り抜ける。この二人による歌心がアルバム全編を豊かに彩っている。
「オズギュン」というジャンル分けが正しいのかどうか、自分にはよく分からない。
だが、そんな聞き慣れないジャンル名は関係なく、美しく耳を幸せにしてくれる音楽であることだけは間違いない。
イスタンブールの音楽一家に生まれ育った姉弟
ナーメ・ヤルキン(Nağme Yarkın, 1985 – )とバトゥライ・ヤルキン(Baturay Yarkin, 1991 – )は母が音楽教師、父がプロの打楽器奏者という音楽一家に生まれ育った。
姉ナーメは3歳からピアノを習い始め、小学校教育と並行して5歳でイスタンブール大学音楽院に入学している。11歳のときにイスタンブール工科大学(ITU)トルコ国立音楽院で伝統楽器ケマンチェの演奏を始め、以降さまざまなコンサートなどで活躍。ITUトルコ国立音楽院卒業後は同大学で教鞭もとっている。
弟バトゥライも早くからピアニストとしての才能を開花させた。
6歳でイスタンブール大学音楽院のピアノコンクールで1位を獲得し、1998年から2010年までこの教育機関で音楽やピアノを学んでいる。
その後大学ではトルコ音楽、ジャズ、そしてアルゼンチンタンゴを研究。卒業後は演奏活動の傍ら教鞭もとり、米国の名門バークリー音楽大学ではトルコ音楽の講義を行ったこともあるそうだ。
二人は2016年にデュオを結成。国内外で演奏活動を行い、2017年にアルバム『One』でデビュー。以降も『Colors of Anatolia』(2019年)、『Quintessence』(2020年)といった優れた作品を発表し続けている。
Baturay Yarkın – piano, electric piano
Nağme Yarkın – kemanche, vocal
Guest :
Fahrettin Yarkın – percussion (3)