Organic Pulse Ensemble『Formative Stages』
良質なスピリチュアル・ジャズのアンサンブルだ、これは紹介しよう。そう思って作品とアーティストについて調べ始めて、とんでもない事実にぶち当たってしまった。
今回紹介するのはスウェーデンの“ジャズ・アンサンブル”、オーガニック・パルス・アンサンブル(Organic Pulse Ensemble)の『Formative Stages』というアルバム。粘るアップライト・ベースに空間を作るパーカッションとドラムスの上で、サックスやフルート、ピアノなどが自在に舞う、トランシーで音に酔えるタイプの心地よいジャズ。
メンバーは…と調べてみるが、どこを見てもグスタフ・ホーネイジ(Gustav Horneij)という人物の名前しか出てこない。そして見つけた、まさかの「one-man band」という記述。
そう、Organic Pulse Ensemble というバンドは、鍵盤もベースもギターも、ドラムスもパーカッションも、サックスもフルートもたった一人の人物によって演奏されている“ワンマンバンド”だったのだ。
すべての楽器の演奏だけではない。収録の9曲の作編曲もすべてグスタフ・ホーネイジの仕事。
音楽理論こそ楽器問わず共通とはいえど、即興演奏も含めこの高いレベルで構造も奏法も異なる様々な楽器の演奏をマスターするのに、彼は一体どれほどの努力を要したのだろう。作曲しアレンジを考え、そのすべてのパートを録音し、リスナーにとっては4分程度で聴き終わる1曲を仕上げるのに、どれほどの時間を使ったのだろう。彼は一体、どれほど音楽を愛しているのだろう……
もちろん複数の楽器を相当に高いレベルで自在に操る音楽家は他にもたくさんいるのだが、たった一人で一枚のアルバムを仕上げる挑戦的な音楽家は世界を見廻してもそう多くはないのではないだろうか。
楽器の楽しさも、その習得の難しさも知っているからこそ、彼の仕事には最大の敬意を捧げたい。
このレベルの“ワンマンバンド”があまりに衝撃的だったので、どうしてもマルチ奏者というテクニカルな事実だけに注目してしまいがちだが、もともと素晴らしいジャズ・アンサンブルだと感じた彼の音楽自体も称賛に値する。
グスタフ・ホーネイジ自身はスウェーデン出身ながら、アルバムの音はアフリカやエチオ・ジャズ、そして東洋のサウンドの感覚に通じる部分が多い。1曲の中でコードの展開は少ないが、繰り返すベースラインや木管楽器の即興的なフレージングが本当に魅力的だ。
複数の役割を高度なレベルで担う人物には、常に「どの役割が最適か」の無責任な議論がつきまとう(例:大谷翔平選手が専念するならバッターか、ピッチャーか?)。
個人的に、Gustav Horneij a.k.a. Organic Pulse Ensemble のこの作品での最も重要な役割としては、「パーカッション」を推したい。その理由は、このサイケデリックに陶酔するアルバムを聴いてもらえればきっと分かるはずだ。
Gustav Horneij – saxophones, flutes, trumpet, keyboards, drums, upright bass, guitar, vibraphone, percussion
Dimitrios Karatzios – bouzouki (5)