自由へのマニフェストを掲げ、前進するウクライナのピアノトリオ
ウクライナ・オデーサ出身のピアニスト/作曲家アンドリュー・ポカズ(Andrew Pokaz)率いるピアノトリオ、ポカズ・トリオ(Pokaz Trio)が5年ぶりの2ndアルバム『Voices』をリリースした。ご存知のように2022年2月24日以降ロシアによる激しい攻撃を受け大きな困難に直面した彼らが今作で掲げ、渇望するのは祖国ウクライナの自由に他ならない。
前作からトリオのメンバーを変え、今作はベースにユージーン・ミルミル(Eugene Myrmyr)、ドラムスにアレックス・ポリアコフ(Alex Poliakov)が迎えられている。前作の低音はダブルベース(コントラバス)だったが、今作ではエレクトリック・ベースとなっているのは大きなサウンドの変化だ。もとより現代的なジャズ志向が特徴的な彼らだが、今作ではエレクトリック(ベースやシンセサイザー)の比重もより大きくなり、激しさを増している。楽曲は緻密に構成され、彼らが重視する“ストーリー”を感じさせる。
静かに物語の始まりを告げる(1)「Intro」でアルバムは幕を開く。(2)「Leaving Home」は最低限のコードながら、約12分間の中で様々な表現方法を用い、何らかの事情で家を去ることになった物語の主人公の感情の動きを音で表す。
(5)「Night Pursuit」は今作で最も衝撃的な1曲だ。不安を煽るように躍動する5拍子のリズム。印象的な音は低音側に集中し、中高音域は低音の装飾に過ぎないようなつくり。つづく(6)「Voices」のシンセサイザーによる不安定なメロディは、ウクライナの人民の声であり、人間の愚かな行為へのアンチテーゼだ。
ラスト(8)「Childhood Fears」はそのタイトルどおり、子供時代に受けた傷のトラウマだろうか。プリペアド・ピアノによる音楽表現の異形は、罪なき人々の心の声なのだろう。
オデーサの現代ジャズトリオ、Pokaz Trio
Pokaz Trio はオデーサ(オデッサ)出身のアンドリュー・ポカズ(Andrew Pokaz)によって結成された。ベースのヴィタリー・フェセンコ(Vitaliy Fesenko)、そしてドラムスのヤコフ・タルンツォフ(Yakov Taruntsov)とのトリオで2019年に『Kintsugi』でデビュー。ノルウェーのレーベル「Losen Records」からリリースされた同作はヨーロッパを中心に広く聴かれ、トリオはヨーロッパ各地でツアーを行った。
2022年2月24日から始まったロシアによる侵攻以来、ウクライナ第三の都市であり工業都市として知られる故郷の街オデーサはロシア軍による弾道ミサイルやドローンでの幾度もの攻撃を受け、市街地や港湾施設に被害を被った。
こうした事態を受け、Pokaz Trioはウクライナを代表するダンスクルーであるアパッチ・クルー(Apache Crew)とチャリティー・ライヴを開催するなどの活動も行っている。
Pokaz Trio :
Andrew Pokaz – piano, electronics
Eugene Myrmyr – bass
Alex Poliakov – drums