ガオ・ハン&イグナシオ・ルサルディ・モンテベルデ、異色のデュオ作
中国出身の琵琶奏者ガオ・ホン(Gao Hong, 漢字表記:高虹)と、アルゼンチン出身のフラメンコギター奏者イグナシオ・ルサルディ・モンテベルデ(Ignacio Lusardi Monteverde)によるユーラシア大陸両端の音楽が融合したような美しいデュオアルバム『Alondra』。ジャズ、フラメンコ、アルゼンチン音楽、中国音楽などに影響されたバラエティ豊かな演奏が楽しめる作品だ。
アルバムはロンドンのアビーロード・スタジオで録音された。ガオ・ホンはピアニストのヴィヴィアン・ファン・リュー(Vivian Fang Liu)の曲の録音のためにアビーロード・スタジオを訪れていたが、この世界的に有名なスタジオは最低でも10時間以上のセッションでないと予約を受け付けてくれないものだった。ヴィヴィアン・ファン・リューの楽曲の録音は数時間で終わるものだったので、余った時間で何か録音しようと思った彼女は、共演者候補リストの中からまだ共演したことのなかったフラメンコギター奏者を選んだ、というのがこの作品の経緯だ。2021年にセネガルのコラ奏者カディアリー・クヤテ(Kadialy Kouyate)と録音したデュオアルバム『Terri Kunda』は大きな成功を収めたが、彼女はこうした新しい試みが大好きだった。
イグナシオ・ルサルディ・モンテベルデとはレコーディングの3日前にZoomでどんな音楽を一緒にやれるかを話し合い、スタジオで音合わせをし、お互いの音楽の共通点や差異を探った。そしてアビーロード・スタジオでの本番、6時間をかけて録音されたセッションが今作というわけだ。
瞑想的に音楽を紡いでいく(1)「Skylark Call」、フラメンコ奏法のギターとトレモロで東洋的な旋律を奏でる琵琶の融合が不思議と美しい(3)「Prayer」、牧歌的な高原の風景を思わせる(4)「Song of the Nomads」、キューバのハバネラの影響を強く受けたタンゴ(7)「La Paloma」など、ここに収められた音はいずれも魅惑的だ。
通りすがりのようなエピソードから生まれた、異なる文化の一期一会。楽器や音楽を行うことのある種の面白さ、素晴らしさが詰まったようなアルバム。
Gao Hong 略歴
ガオ・ホン(高虹)は1964年中華人民共和国河南省洛陽市生まれの中国琵琶奏者。幼少期より中国琵琶の演奏をはじめ、12歳の頃には既に驚くべき演奏をしていたようだ。若くして古都洛陽に家族を残し劇団で演奏するため河北省にひとりで移住したが、彼女にはそれが自分が得られた大きなチャンスだと理解していた。中国政府職員で地主だった彼女の父親は農民から学ぶために田舎に送られ、それが最終的に母親との離婚につながった。ガオ・ホンの母親は音楽教師として家族を支えていたが、ガオ・ホンが劇団に加わったことで家計の負担は軽減された。
劇団で3年間活動したあと音楽学校でのより高度な練習を開始。22歳のころ、中国最高峰の音楽教育機関である北京の中央音楽学院の試験に合格し、中国琵琶の巨匠であるリン・シーチェン(Lin Shicheng, 林石城)に師事することとなった(リー・シーチェンと1996年に演奏した録音はのちに『Hunting Eagles Catching Swans』としてリリースされた)。
1994年にアメリカ合衆国に移住。全米をまわるツアーも行なっている。
以来、「Spirit of Nature」「Beijing Trio」といったグループで伝統的な中国音楽を演奏しているだけでなく、ジャズやワールド・ミュージックの分野でも数多くのミュージシャンと共演。ミネソタ州ノースフィールドのカールトン大学では中国楽器を教えている。
Ignacio Lusardi Monteverde 略歴
イグナシオ・ルサルディ・モンテベルデはイタリア系の家系のもと、アルゼンチンのブエノスアイレスで生まれた。6歳からギターを弾き始め、兄弟たちとともにアルゼンチンの民謡やタンゴ音楽を演奏した。
9歳のときにスペインのフラメンコギタリスト、パコ・デ・ルシア(Paco de Lucia)の作品に出会いフラメンコに傾倒。2013年にイギリス・ロンドンに移住し、そこでスペインや世界の他の国々と音楽的につながりを持つようになった。
現在もロンドンを拠点としており、ギタリストやオーディオ・エンジニアとしても活躍。2019年にミュージシャン・オブ・ザ・イヤー・ラテンUKアワードを受賞している。
Gao Hong – pipa
Ignacio Lusardi Monteverde – guitar