ジャンルの概念を溶かす、インド系移民SSWシェヘラザードの衝撃的デビュー作『Qasr』

Sheherazaad - Qasr

インド出身のSSWシェヘラザードのデビュー作

また、とんでもないアーティストが現れた。
インド系移民2世として米国で生まれ育ったシンガーソングライター、シェヘラザード(Sheherazaad)。近年大ブレイクしたパキスタン出身のSSWアルージ・アフタブ(Arooj Aftab)がプロデュースしたデビュー作『Qasr』は、音楽が従来のジャンルという概念ではなく、その人自身のパーソナルに大きく依存する時代を象徴するような素晴らしい仕上がりだ。

アルバムのタイトル「Qasr」はパキスタンやインドの公用語のひとつであるウルドゥー語で「城」または「要塞」を意味する。これは彼女自身の出自であるディアスポラを想起させるものであり、それらに内在する暴力やヒステリー、そしてロマンスについて深く振り下げるという彼女の行為を象徴している。

(1)「Mashoor」は素晴らしい。
演奏はシェハラザードと同様にインド系アメリカ人の女性ギタリストのリア・モダク(Ria Modak)と主にカホンを叩くレバノン出身のギルベルト・マンスール(Gilbert Mansour)との共演で、アラビア音楽を想起させるイントロから物静かなフォーク調の前半部、そしてフラメンコへと推移する曲調が不思議な雰囲気を醸し出す。シェヘラザードは楽器は演奏せず全編でヴォーカルのみを披露するが、繊細な歌唱表現力に加え巧みな音響処理も相まって非現実的なサウンドを作り上げている。

(1)「Mashoor」

(2)「Dhund Lo Mujhe」はエジプト出身の女性ヴァイオリン奏者バスマ・エドリース(Basma Edrees)がソロをとる。どこかバルカン半島の伝統的な音楽を思わせる曲調はヴァイオリン以外のストリングス全般を担当するノルウェーのピアニスト/編曲家ルナル・ブレスビク(Runar Blesvik)の貢献も大きいだろう。

(5)「Lehja」にはパキスタンのカーヌーン奏者フィラス・ズレク(Firas Zreik)がフィーチュアされている。ピアノと空間的なパーカッション、そして煌びやかなカーヌーンの音色がシェヘラザードの歌声をより神秘的に際立たせる。

シェヘラザード ──革命的な女性の名、あるいは自由都市

シェヘラザード(あるいはシャーラザット)という姓は一般的には「Scheherazade」と綴られ、それはイスラム世界の古典『千夜一夜物語』のストーリーテラーである革命的な女性の名前として知られている。この寓話は彼女が子どもの頃からのお気に入りで、彼女がもっとも愛するキャラクターでもある。また、「シェヘラザード」はヒンディー語とウルドゥー語では“自由都市”を意味する。彼女は人、特に女性がそれ自体で一種の都市の実体であるという考えを好んでいる。南アジアの文脈では、大都市が歴史的にイノベーション、先進的思考、特に女性の社会的流動性の中心地であることから、この”sheher”(都市)という考えと結びつけるのはより暗喩的かつ直感的なのだ。

Sheherazaad – vocals
Ria Modak – classical guitar (1)
Gilbert Mansour – percussion (1, 5)
Runar Blesvik – percussion, strings (2), piano (5)
Basma Edrees – violin (2)
Dave Brophy – percussion (3)
J. Valleau – guitar (3), piano (4), synth (5)
Lion Tortolero – oud (3)
Arooj Aftab – synth (4), additional synth (5)
Firas Zreik – kanun (5)

関連記事

Sheherazaad - Qasr
最新情報をチェックしよう!