「地球の音楽」を意味する、本サイト「ムジカテーハ(Musica Terra)」。
世界の良質な音楽を皆様にご紹介しているわけであるが、果たして実際に現地ではどのような音楽が聴かれているのであろうか?
第3回はアメリカ・テキサス州オースティン。
カントリー・ミュージックがさかんなこの地で毎年行われる音楽と映画の祭典、SXSW(サウス・バイ・サウス・ウエスト)で聞こえてきた音を皆様にお届けしたい。
SXSW(サウス・バイ・サウス・ウエスト)とは?
SXSWは1987年に同地で始まった音楽祭。現在では映画祭、インタラクティブ(スタートアップを中心とした最新テクノロジーの展示・カンファレンス)、コメディのステージなども同時に行われている。
トレンドの発信基地として、SXSW発の作品やアーティスト、テクノロジーサービスは数多く存在し、映画で言えば『ムーンライト』、”エブエブ”こと『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』の配給会社A24がまさにここからアカデミー賞受賞作を輩出し、今や当たり前に使われているX(当時はTwitter)もこのSXSWから羽ばたいていった。
音楽に関しても、街中の各バーやレストラン、ライブハウスで、ライブが連日連夜行われ、過去にはビリー・アイリッシュ(Billie Eilish)やノラ・ジョーンズ(Norah Jones)などもこの地で演奏をしている。
今年もモグワイ(MOGWAI)や先日取り上げたテキサスのラッパー・ソースウォーカ(Sauce Walka)などが出演。日本からもバックドロップシンデレラやThe Fin.などが参戦していた。
“世界のライブミュージックの首都”オースティン
オースティンへは日本からの直行便がない。
そのため、今回はヒューストンを経由してオースティンへ向かった。
ヒューストンと言えば、ゲトー・ボーイズ(Geto Boys)、スリム・サグ(Slim Thug)、前述のソースウォーカetc、ついついHipHop脳で考えてしまっていたが、NASAのジョンソン宇宙センターがある街。入口でも宇宙飛行士の看板が出迎えてくれた。
空港内で流れる音楽もダーティ・サウス全開で来るかと思いきや、意外にさわやか&多国籍。ジョン・メイヤー(John Mayer)、レヴェル42(Level 42)、そしてここで取り上げるのはエンリケ・イグレシアス(Enrique Iglesias)の「Rhythm Divine」。
“世界で最も売れているスペイン語系アーティスト”と言われるエンリケが、ユニバーサルと契約して初めて英語圏市場に進出したアルバム『Enrique』からの本曲は口パク疑惑が持たれた曰く付きの楽曲だ(なお、すぐさまアコースティック演奏の生放送を行い、疑惑はすぐに晴れている)
すぐ下にメキシコがあるテキサスにおいて、ラテン系の文化は日常と密接に関わっている。料理も独自のテクスメクス(メキシコ風テキサス料理)が発展しており、そういった意味では、まさに旅の入り口にふさわしい楽曲だったのではないだろうか。
いよいよオースティンに着いた筆者を空港で出迎えたのは巨大なギターのモニュメント。
さすが音楽の街。
300弱のライブハウスがひしめき合うというこの街を見事に表現している。
なお、こういったギターの銅像などは街中でもあちこちで見ることが出来た。
SXSWのパスを受け取りにコンベンションセンターへ向かったあとは、恒例のアメリカのドラッグストア・CVSでの買い出しだ。
何せ約1週間の長丁場である。この買い物が非常に重要であることは言うまでもない。
なお、ここで流れていたのはホイットニー・ヒューストン(Whitney Houston)の「I’m Every Woman」。アメリカ滞在中、なぜか必ず1回は流れるホイットニー。これはヨーロッパとの大きな違いと言っていいのではないだろうか。
1日目:
翌日、いよいよSXSWスタート。
節約のため街中から少し(というかかなり)離れた場所の宿を取った関係で、基本移動はバス。
ただ、1week ticketは、いわゆるみどりの窓口的なところでしか買えない(※)ため、タクシーで街中へ。ラスベガスではUberが基本となるが、オースティンではLyftが配車の基本となる。
※webアプリからも購入出来るが、アメリカのアカウントが必要。
当然アメリカのタクシーでは音楽が流れまくっているわけで、この日の朝もなかなか面白い選曲。ノトーリアスB.I.G(Notorious B.I.G.)からビリー・ジョエル(Billy Joel)まで様々ながら、やはり一番はコレだろう。
Black Betty / Ram Jam
この70年代の泥臭い感じのハードロック。
まさにSXSWを感じる好スタート。
好選曲のタクシードライバーと共に、街中へ向かいます。
この日はAntone’sを取材。
Antone’sといえば1975年から約半世紀にわたり、この地で音楽を見届けてきたブルースの聖地。今でもブルースのフェスなどが開催されており、このナイトクラブでB.B.キング(B.B. King)やバディ・ガイ(Buddy Guy)が演奏していたかと思うと、それだけで心が躍る。
昼間に行われていたのはテキサス大学の学生のショーケース。
学生が歌っていたのは、ご存知コリーヌ・ベイリー・レイ(Corinne Bailey Rae)の2006年の代表曲「Put Your Records On」。
なお、一方で近くのHiltonでは、こんなバンドも。
バイオリンの音色が南部の牧歌的な雰囲気を醸し出す、良質なカントリーを聴かせてくれた。
また、オースティンはスタートアップの街でもある。
この日の夜行われたスタートアップが一堂に介するパーティーでは、DJの音楽の中、オースティンの地ビールやプレッツェルが振る舞われた。
この時DJの選曲で印象に残っていたのがこちら。
Closing Time / Semisonic
昨年22年ぶりの新作発表が話題となったセミソニックの98年の代表曲。
やはりこの街にはギターロックがよく似合う。
2日目:
この日はSXSWの名物スピーカーで未来学者のエイミー・ウェブ(Amy Webb)氏のカンファレンスからスタート。
非常に面白い内容なので、是非お時間がある方は見ていただきたいが、こういったカンファレンスで流れるSEがなかなか侮れない。
ここでPick Upするのはこちら。
I Wish My Mind Would Shut Up / Ivoris
日本ではまだあまり知られていないが、メルボルンを拠点とするSSW。影響を受けたアーティストにUMIを挙げるなど、その甘い歌声とキャッチーな楽曲が特徴の次世代R&Bシンガーの22年曲。なお、SXSW2024でもステージに立っており、日程の関係上、見ることは出来なかったが今後要注目のアーティストだ。
一方、この日のハイライトは、やはりPorsche主催のナイトパーティーに出演したコモン(Common)だろう。しかもDJを務めたのはナインス・ワンダー(9th Wonder)という超豪華仕様。
カニエ・ウエスト(Kanye West)プロデュースで代表作の一つ『Be』のイントロから始まったショーケース。同作の「Testify」をはじめ、初期の代表曲「I used love her」、Jディラ(J Dilla)の美しいトラックが秀逸な「The Light」など代表曲のオンパレードで、会場のボルテージは否が応でも上がっていく。そして最も盛り上がったのはファンの女性をステージに上げての「Come Close」。MV同様、話しかけるように放たれる言葉の数々に誰もが温かい気持ちになった瞬間であった。
Come Close / Common
3日目:
大音量でエミネム(Eminem)「Without Me」をかけながら走りさる車を横目に見ながら始まった3日目。
昨夜のコモンの余韻からか、HipHopをよく耳にする。
ちょうどアカデミー賞の発表の日でもあったこの日。中継を観ながら夕食を取っていた時にかかっていたのはこの曲。
Feels / Calvin Harris feat Pharrel Williams,Kety Perry & BigSean
ファレルが本当にいい仕事をしている2018年作。すっかり忘れていたが、久々に聴くと本当に名曲だ。
また、この日はRockでもHipHopでもなくJazzが目立った日。
スタートアップやこれからのロックバンドといった若くエネルギー溢れる街でありながらも、元々はブルースも盛んな大人の街。こんなJAZZも聴けるのが、このSXSWなのである。
4日目:
この日は世界一のコンサルティングファーム、アクセンチュアのオースティン支社へ。
注目したいのはそのミーティングブース。
テキサス出身のカントリー・シンガー、ウィリー・ネルソン(Willie Nelson)をはじめ、ジャニス・ジョプリン(Janis Joplin)、スティービィ・レイ・ヴォーン(Stevie Ray Vaughan)と、アーティスト名がついたもの。
さすがは音楽の街・オースティン。ここにも音楽は根付いている。
なお、この日気になった音はこちら。
New Slang / The Sins
テキサスのお隣、ニューメキシコ州のバンド、ザ・シンズの2001年作は、ニルヴァーナ(Nirvana)やマッドハニー(Mudhoney)などグランジで有名なサブ・ポップ・レーベルのバンドとは思えない、ノスタルジーに溢れたサウンドが特徴。
5日目:
いよいよ、滞在最終日。
本当は週末にかけて、上述のIvorisや以前に別記事でも取り上げたソースウォーカが出演するのだが、仕事の関係でここで終了。
体力的にもしんどくなってきたこのタイミングで染み渡るのはやはりカントリー。
There Goes My Life / Kenny Chesney
カントリー界のスーパースター、ケニー・チェズニーの400万枚売れた2004年のモンスターアルバム『When the sun goes down』からの1曲。まだまだお祭りの続くSXSWの中、哀愁たっぷりに歌われるケニーの歌声に癒されたのは間違いない。
6日目:
この日は朝から空港へ。
空港の待ち時間でやることと言えば、Barでのビールと決まっている。
空港のBarは少し割高だが、地元のビールが飲めるだけでなく、その土地の音楽の嗜好も楽しむことが出来るからだ。
そんな最終日のオースティンの空港で聞こえてきたのはこんな音。
Tanto / Tagua Tagua
フランスのFKJのようなシルクのような肌触りの音像が心地よい、サンパウロ発、フェリピ・プペリ(Felipe Puperi)率いるバンド、タグア・タグアの23年作。
まさかオースティンでブラジル音楽を聴けるとは。
また、復路はデンバーで乗り換え。
デンバーでは一転してRock一色。Rockと一言で言っても前回のハワイでのオールディーズロックではなく、ゴリゴリのRock。
その中でも気になったのはやはりこれだ。
Fly Away / Lenny Kravitz
レニーが初めてグラミーを受賞した98年作。
何だかんだでやはりSXSWはRockだよなぁ、と思いながら、無事帰路に着いた。
いかがだっただろうか。
前回のラスベガスに比べて、やはりRockやカントリーへの愛をそこかしこに感じることが出来た音楽の街・オースティン。
今回も現地で流れていた曲をまとめたプレイリストを用意したので、是非本稿の空気が少しでも伝わると幸いである。