【連載】ネイティブ・タンの衝撃~⑨HipHop黄金期と2枚目のジンクス。”変わり者”Black Sheepの94年作『Non Fiction』

「ニュースクール」の幕開けを高らかに宣言した伝説のクルー

HipHopにはクルーと呼ばれるチームが数多く存在する。古くはマーリーマール(Marley Marl)率いるザ・ジュース・クルー(The Juice Crew)から、ノトーリアス・B.I.G(Notorius B.I.G.)のジュニア・マフィア(Junior M.A.F.I.A)とトゥパック(2PAC)率いるアウトロウズ(Outlowz)は悲しい抗争を生み出した。あのエミネム(Eminem)も元々はD12というクルーのメンバーであるし、最近ではドレイク(Drake)を輩出したヤングマニー(Young Money)も記憶に新しいところだ。このようにHipHop史を語るうえで切り離すことの出来ない“クルー”の存在の中で一際異彩を放つのが、ネイティブ・タン(Native Tongue)である。

ネイティブ・タンの誕生と94年HipHop

2020年代でありながら30年近く前のHipHopを取り上げる奇特なこの連載。
それは自分がこの時期をHipHopの黄金期と捉えているからに他ならない。
オールドスクールのマッチョで攻撃的なラップのイメージを覆して、誰もが聴ける楽しいHipHopであるニュースクール。
それらを作り上げたジャングル・ブラザーズ(Jungle Brothers)デ・ラ・ソウル(De La Soul)といったネイティブ・タンの首謀者たちのデビューは概ね1988年〜90年。
『Straight Out The Junge』や『3 Feet High and Rising 』などの名盤が多い一方、黎明期特有の荒さが目立つこの時期を経て、93〜94年、彼らのはより洗練された作品へと昇華されていく。
本特集で取り上げたビートナッツ(Beatnuts)の『Street Level』コモン(Common)の『Resurrection』はいずれもこの時期に発表された作品である。
そして、本稿で取り上げるブラックシープ(Black Sheep)『Non Fiction』もまた、94年に発表された彼らの2枚目の作品となる。

JAZZネタのサンプリングとサラーム・レミ

クイーンズ出身のドレス(Dres)ミスターロング(Mista Lawnge)の2人からなるブラックシープは91年の『A Wolf in Sheep’s Clothing 』でのデビューとともにネイティブタンに参画。「The Choice Is Yours 」などのHipHopクラシックを数多く生み出した1stとの比較で、どうしても埋もれがちな本作だが、上述した通りHipHop黄金期の作品に相応しいクオリティに仕上がっている。

1stアルバムに収録されているBlack Sheepの代表作であり、HipHopクラシックでもある「The Choice Is Yours」

レス・マッキャン&エディー・ハリス(LES McCANN AND EDDIE HARRIS)の「Kathleen’s Theme」のピアノを使った(2)「Autobiographical」から1stとまったく違う肌触りを感じる本作は、聴いてわかる通り、この時期のHipHop特有のJAZZサンプリングがふんだんに使われている。
(3)「B.B.S」はソニー・フィリップス(SONNY PHILLIPS)の「Free Like The Wind」のピアノをサンプリング。なお、サビで歌われるフレーズは、タイトルにもなっているミュージカル「Bubbling Brown Sugar」のテーマソング。同じフレーズながら明るいミュージカルサウンドが一転、非常にジャジーな雰囲気を纏ったものに生まれ変わっているのに是非注目してほしい。
ここまでのピアノ中心のサンプリングからウッドベース中心のグルーヴィーな展開へと移行するのが(4)「City Lights」。アル・ヘイグ&ジミー・レイニー(AL HAIG AND JIMMY RANEY)Invitation」の後半に少しだけ流れる激渋ベースをループした本曲で、一気にHipHop濃度が高まるのを感じることができるはずだ。なお、バックのドラムループはビル・コズビー(BILL COSBY)Get Out of My Life, Woman」のドラムというこちらも通なチョイス。
ドラムといえば、同様に(8)「Gotta Get Up」はキャノン・ボール・アダレイ(CANNONBALL ADDERLEY)の「Hundred & One Year/M’ria」の一聴してわかる特徴的なドラムをサンプリングしている。

サンプリング以外にも特筆したいのは、本作に参加するフィーチャリング・アーティストだ。
(6)「E.F.F.E.C.T」はショウビズ & A.Z.(SHOWBIZ & A.G.)を、(7)「Freak Y’All」は同じネイティブ・タンのチ・アリ(CHI-ALI)をフィーチャーしている。
また本作のリードシングルであり、最後を締めくくる(16)「Without A Doubt」は、後にサラーム・レミ(Salaam Remi)によるRemixが発表されている。この後フージーズ(Fugees)エイミー・ワインハウス(Amy Winehouse)といったHipHop〜JAZZ界隈で名を馳せる名プロデューサーがこの当時から楽曲に関わったことからも、ブラックシープに対する注目の高さが伺える。

後にサラーム・レミのRemixも話題となった(16)「Without A Doubt」

このように、1作目とは違ったアプローチで素晴らしいクオリティの作品を残したドレス&ミスター・ロングによる「Black Sheep(変わり者)」は本作を最後に終わりを迎えることとなる。
前回取り上げたLONS然り、93-94年に起こるHipHop黄金期は、急激なサウンドの変化に耐えきれず解散を促す劇薬とも言えるのかもしれない。

現在はドレスのみで活動を続けるブラックシープ。
本稿で当時に思いを馳せながら、是非現在のブラックシープもチェックしてみてほしい。

プロフィール

N.Y.クイーンズ出身のヒップホップ・デュオ。印象的なドラムやベースラインとJazzをベースにした重厚なトラックに、ヒップホップが本来持つべき、初期衝動的な楽しさを武器に中毒性の高いナンバーを量産し、絶大な指示を集める。元はドレス(Dres)、ミスタ・ロング(Mr. Lawnge)の2人組であったが、現在はドレスとディージェイストライク(DJ STRIKE)の構成でBLACK SHEEP として活動中
(Clubberiaより抜粋)

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