クラウヂア・カステロ・ブランコによるシヴーカ再解釈
ビアンカ・ジスモンチとのデュオ“Gisbranco”の活動などで知られるピアニスト/歌手のクラウヂア・カステロ・ブランコ(Claudia Castelo Branco)の新作『Viva Sivuca』は、その名のとおりブラジルを代表する音楽家シヴーカ(Sivuca)へのトリビュート・アルバムだ。楽曲は単なるシヴーカのありきたりなカヴァーではなく、クラウヂアによって原曲の良さを活かしつつ新たな解釈が加えられており、とても聴きごたえのある作品となっている。
バンドの編成はクラウヂア・カステロ・ブランコのピアノ/ヴォーカルのほか、モダン・パンデイロ奏法を築いたパーカッショニストのマルコス・スザーノ(Marcos Suzano)、さらにベース/ギター奏者のフレッヂ・フェヘイラ(Fred Ferreira)が全面参加。ピアノも非常に歯切れのよい音色で奏でられ、シャープに引き締まったリズムがシヴーカの名曲たちを現代的に甦らせる。
アルバムの幕開けを飾るのはムタンチス(Os Mutantes)によるサイケデリックなカヴァーでも知られる(1)「Adeus Maria Fulô」。ここではパーカッシヴなピアノとクラウヂアの柔らかなヴォーカル、マルコス・スザーノの低音が強烈に効いたパンデイロ、そしてムタンチスを思わせる中間部のサイケな音響処理など、独特な世界観が素晴らしいカヴァーとなっている。
続く(2)「Feira de Mangaio」もシヴーカの代表曲で、通常であれば高速のリズムで演奏されるこの曲をダークな雰囲気でアレンジ。フレッヂ・フェヘイラが弾くベースも印象的なアレンジが施されており、クラウヂアのヴォーカルもどこかアンニュイだ。マルコス・スザーノは複数のパーカッションを演奏しており、中〜後半で加わるパンデイロはチューニングも高く、トラディショナルなスタイルとなっている。
シヴーカ作曲、シコ・ブアルキ(Chico Buarque)作詞の(4)「João e Maria」にはゲストで人気ショーロバンド、グルーポ・セメンチ(Grupo Semente)のリーダーであるペドロ・ミランダ(Pedro Miranda)が参加。
(11)「Cabaceira Mon Amour」と、これにシヴーカの妻で音楽家のグロリーニャ・ガデーリャ(Glorinha Gadelha)が詩をつけた(5)「Cheirinho de Mulher」は同じ曲ながらそれぞれアレンジや編成の違いによって異なる雰囲気を湛え、いずれもシヴーカの楽曲に見られる様式美を誇らしく提示する。
クラウヂアのピアノ弾き語りで演奏される(8)「Canção que se Imaginara」もシヴーカの楽曲の抒情的な美しさを見事に体現しており、素晴らしい。
Claudia Castelo Branco 略歴
ピアニスト/歌手のクラウヂア・カステロ・ブランコは1981年リオデジャネイロ生まれ。とりわけエグベルト・ジスモンチ(Egberto Gismonti, 1947 – )の娘でピアニストのビアンカ・ジスモンチ(Bianca Gismonti, 1982 – )とのデュオ活動“ジスブランコ”(Gisbranco)で知られ、このデュオで5枚のアルバムをリリース。のちにソロとして2022年に『Cantada Carioca』もリリースしている。
Sivuca 略歴
シヴーカの芸名で知られるセヴィリーノ・ヂアス・ヂ・オリヴェイラ(Severino Dias de Oliveira, 1930 – 2006)はブラジルの伝説的な作曲家/アコーディオン奏者/ギター奏者。ショーロ、フレーヴォ、バイアォン、フォホーといったブラジル特有の音楽や、ジャズ、西洋のクラシック音楽、ブルースなどからも影響を受けた作風が特徴的で、音楽家たちから愛される数多くの楽曲を遺した。
アルビノで髭面という外見的特徴は、同じくブラジルの伝説的なマルチ奏者であるエルメート・パスコアール(Hermeto Pascoal, 1936 – )ともしばしば混同されがちである。
Claudia Castelo Branco – piano, vocal
Fred Ferreira – bass, guitar
Marcos Suzano – percussion
Guest :
Pedro Miranda – vocal (4)