ニア・フェルダー 4年ぶり新譜『III』
ニューヨークのギタリスト/作曲家ニア・フェルダー(Nir Felder)の『III』は、これまでの彼の作品の中で最も彼のギターの“凄み”を感じられる作品ではないだろうか。ギターの音はより太く、深くなり、アドリブソロも冴え渡る。多重録音も随所に用いられそれがアルバムとしての効果的な演出となっているが、それでいてライヴ感は全く失われず、強力な推進力を伴った演奏に惹き込まれる。
前作同様にベースのマット・ペンマン(Matt Penman)、ドラムスのジミー・マクブライド(Jimmy MacBride)とのギタートリオ編成だが、(1)「Mallets」のみアルバムの他の曲とは編成が異なり、ピアノのケヴィン・ヘイズ(Kevin Hays)、ベースのオーランド・ル・フレミング(Orlando Le Fleming)、そしてジミー・マクブライドという構成になっており、ニア・フェルダーのギターはジョン・スコフィールド(John Scofield)を彷彿させるような演奏となっている。
(3)「Longest Star」は前作『II』の冒頭に収められていた曲の再演だ。カナダ出身でNYで活動するSSW、メイ・チャン(May Cheung, 張翠薇)が控えめに声を入れており、その絶妙な存在感はパット・メシーニ・グループ(Pat Metheny Group)におけるマーク・レッドフォード(Mark Ledford)を想起させる。前作でのこれは演奏が盛り上がる前に終わってしまっていたが、今作では7分半の長尺の中でアグレッシヴにギターを弾き倒すニアを聴くことができる。
疾走感のある5拍子のリズムが印象的な(4)「Era’s End」を挟んで、つづく(5)「Dream」もとても面白い。ダブルベースのソロで始まり、5拍子のリズムが他のパートの参入によって明示され、そこからはニア・フェルダーの独壇場だ。今作の中では比較的クリーンな音色のギターで演奏され、次々と多彩なフレーズを繰り出す。さりげない前半部のさりげないハンドクラップも物語の伏線のように機能し、後半の驚くべき場面展開でその真価を発揮している。
今作でニア・フェルダーはギターだけでなくマンドリンやバンジョー、エレクトリック・シタール、ローズピアノ、シンセサイザーなどを演奏。それぞれの楽曲にさまざまなスパイスを試みている。
Nir Felder 略歴
ニア・フェルダーは1982年にニューヨーク市ワシントンハイツ地区に生まれた。家族は1987年にニューヨーク市郊外のハーツデールに、1994年にウエストチェスター郡のカトナという人口1,700人ほどの町に引っ越している。
2005年にバークリー音楽大学を卒業し、グレッグ・オズビー(Greg Osby)、エリカ・バドゥ(Erykah Badu)、エスペランザ・スポルディング(Esperanza Spalding)、マーク・ジュリアナ(Mark Guiliana)、ジャック・ディジョネット(Jack DeJohnette)、ミシェル・ンデゲオチェロ(Meshell Ndegeocello)、ブラッド・メルドー(Brad Mehldau)など数多くのミュージシャンとの共演を重ね、ロックミュージックから多大な影響を受けた独創的なギタープレイで徐々にその名を売っていった。
2014年に初リーダー作『Golden Age』をリリース、2020年に2作目となる『II』をリリース。
現在も愛用しているギターは13歳の時に250ドルで買ったというメキシコ製のフェンダー・ストラトキャスター。ジャズをやり始めた頃は周囲から「そのギターではジャズはできない」と言われたこともあったようだが、彼はその後ずっとこのギターを愛用し、独自の音楽を表現し続けている。
Nir Felder – guitars, mandolin, banjo, electric sitar, key bass, Fender Rhodes, Theremin, synthesizers, MPC
Jimmy Macbride – drums
Matt Penman – double bass (except 1)
Kevin Hays – piano (1)
Orlando Le Fleming – double bass (1)
May Cheung – vocals (3)