エルナン・ハシント、飛行機事故で悲劇の最期を迎えたタンゴの偉人カルロス・ガルデルに捧ぐジャズ

Hernán Jacinto - Gardel

名手エルナン・ハシント新作はカルロス・ガルデル曲集

アルゼンチンを代表するピアニスト、エルナン・ハシント(Hernán Jacinto)の新譜『Gardel』。アルゼンチンらしい透明度の高いアレンジ・演奏で、時代を超えて愛される名曲を語り継ぐ素晴らしい作品だ。(1)「Yira Yira」を除き、ほか全曲がアルゼンチンを代表するタンゴ歌手/作曲家カルロス・ガルデル(Carlos Gardel, 1890 – 1935)の有名な楽曲群のカヴァーで、アルゼンチン音楽界の“英雄”への深いリスペクトを卓越したジャズで表現する作品となっている。

美しいタンゴ(2)「Golondrinas」(ツバメ)は、ここでは抒情的な演奏によって甦る。エルナン・ハシントのピアノの表現力とテクニックが素晴らしいのはもちろん、トリオのメンバーであるフェルナンド・モレーノ(Fernando Moreno, ds)とフラビオ・ロメロ(Flavio Romero)との均衡の取れた最高のトリオの演奏にも注目してほしい。

美しいメロディーが印象的な(3)「Por Una Cabeza」(首の差で)はガルデルの主演映画『タンゴ・バー』(1935年)の挿入歌として作曲された曲。もともとエレガントな曲だが、エルナン・ハシントのピアノはさらに優美で甘い味わい。

(5)「El Día Que Me Quieras」(想いの届く日)はカルロス・ガルデルが同名の自身の主演映画『想いの届く日』(1935年)のために書いた世界的に知られる名曲だ。人気絶頂期だったカルロス・ガルデルはこの映画のプロモーション旅行の最中だった1935年6月24日に、楽曲制作の良きパートナーであったブラジル出身の作詞家/ギタリストのアルフレード・レ・ペラ(Alfredo Le Pera, 1930 – 1935)とともに搭乗していた飛行機の事故に遭い、亡くなってしまっている。

(6)「Mi Buenos Aires Querido」。1:10〜頃からはカルロス・ガルデルの原盤の歌も使用されている

シンセも用い現代的なアレンジが施されたラストの(7)「Volver」(帰郷)もカルロス・ガルデルの代表曲だ。『想いの届く日』挿入曲として書かれた曲で、幼少時に極貧の母親とともにフランスからアルゼンチンに移住したカルロス・ガルデルと境遇を思い出させる。これは移民としてやってきたすべてのアルゼンチン人にとっての郷愁の象徴であり、もっとも有名で美しいタンゴとされている。

Hernán Jacinto 略歴

エルナン・ハシントはアルゼンチン・ブエノスアイレスに1981年に生まれ、6歳の頃から独学で音楽、とりわけピアノの勉強を始めた。彼の“教師”となったのはディエゴ・スキッシ(Diego Schissi)、ギレルモ・ロメロ(Guillermo Romero)、クラウディオ・スペクトル(Claudio Spector)、セルヒオ・モラレス(Sergio Morales)といった南米を代表する音楽家たちだったという。

2003年に奨学金を獲得し、ボストンのバークリー音楽大学に留学。2006年にはヨーロッパで大規模なツアーを行い、オーストリア、スイス、ドイツ、クロアチアで合計25回のコンサートを行った。2009年にはクラリン賞の新人ジャズ・ミュージシャンとして表彰され、2017年にはフェルナンド・オテーロ(Fernando Otero)のアルバム『Solo Buenos Aires』のサウンド・エンジニアとしての功績が評価され、ラテングラミー賞を受賞している。

Hernán Jacinto – piano
Flavio Romero – contrabass
Minino Garay – drums (1)
Fernando Moreno – drums (2, 3, 4, 5, 6, 7)

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