ダニエル・ザミール、SSWとしての新章を告げる新作
ダニエル・ザミール(Daniel Zamir)といえば、イスラエルの現代ジャズシーンを代表するソプラノサックス奏者として世界に広く知られていることに疑念の余地はない。その音楽観は非常に個性的で、彼は2000年代以降一種のムーヴメントとなった所謂“イスラエル・ジャズ”勢の中でも突出してユダヤの伝統に強くインスパイアされた“ジューイッシュ・ジャズ”の音を鳴らし続けてきた。
だが、久々にリリースされた新作『חדש』をわくわくしながら再生するとき、あなたはすぐに期待しているダニエル・ザミールのジューイッシュ・ジャズがそこに存在しないことに気づくだろう。変拍子の嵐の中で激しく渦を巻くような循環呼吸のサックスは(あなたは残念に思うかもしれないが)そこにはない。
その代わりに、このアルバムには優れたシンガーソングライターによる歌が10曲収録されている。これが、今のダニエル・ザミールの音楽だ。3年前にバイセクシャルであることを告白し、ユダヤ教超正統派コミュニティの中でLGBTの人々がありのままに受け入れられるために闘ってきた彼の、魂の音楽だ。
歌詞はすべてヘブライ語で歌われる。エルサレム劇場のWebサイトによると、この作品は良いものを探して世界中をさまよい、苦難や困難を経験しながらも、最終的には良いものが勝つことを知る魂の物語を語っている、という。
アルバムタイトル『חדש』は“ハダッシュ”と読み、意味は英語で“New”、つまり“新しい”。音楽的には大きな変化へのチャレンジが見てとれる。
これは茨の道を歩み、転んでは立ち上がり、また転んでは再び立ち上がる、決して歩みを止めない男の物語なのだ。感傷的なバラードが多いが、中でもラップによる表現が素晴らしいタイトル曲(2)「חדש」、オートチューンによるヴォーカルの加工も効果的な(4)「הולך קדימה」が特に印象に残る。