異常な時代の中、音楽に想いを託すイスラエルのバンドPinhas & Sons 待望の新譜で彼らが伝えたいこと

Pinhas & Sons - What Will be the End with Us

Pinhas & Sons 新譜『私たちの結末はどうなってしまうのか』

おそらくは音楽史上最高傑作のひとつであろう前作『מדובר באלבום』(About an Album, 2018年)から6年。イスラエルの大所帯バンド、ピンハス&サンズ(Pinhas & Sons, פנחס ובניו)が、ついに待望の新作『מה יהיה עלינו』(What will be the end with us)をリリースした。パンデミック、政治腐敗に戦争といった困難が次々と降りかかる中で、常にオープンマインドな姿勢を示し続け、希望を諦めずに、人生のあらゆる側面を音楽にし創造的な表現をおこなう彼らの想いが凝縮されたようなアルバムだ──ぜひ、音楽や芸術を愛するすべての人に聴いてもらいたい。そしてイスラエルという国を取り巻く現況に対して少しでも関心があるのなら、この世界的に見ても稀有な才能をもった純粋な芸術家集団がこの時代をどのように過ごし、今どのような想いで作品としてリリースしたのかを感じとってほしい。

今回、アルバムのリリースにあたりバンドを率いる作編曲家/鍵盤奏者/シンガーのオフェル・ピンハス(Ofer Pinhas)から特別に全曲の解説をいただくことができた。拙稿ではその内容とともに、アルバムの各楽曲について紹介していく。

まずは彼から寄せられた今作についてのイントロダクションから。

Ofer Pinhas(以下、O.P) アルバムや各曲について、思いついたことを何でも話してみよう。
このアルバムの制作は実際かなり前から始まったんだ。君も覚えているかもしれないけど、いろいろなことが障害になって遅れてしまった。でも、その全てが悪いことだったとは思っていない。家族のことに集中したり、バンドの外でユニークな機会に恵まれたりして、自分にとって良い方向にシフトしたこともあったから。

とにかくこのアルバムは、いつだって制作の途中にあった。Pinhas & Sons は僕にとって最も野心的で芸術的、クリエイティブな面で最もピュアで、おそらく最も冒険的な場所なんだ。

僕は人生の中に国境のない空間があり、未知への探求さえ許される場所があるという事実がとても好きだ。それがこのバンドの本質だと思うし、僕たちをつなぐものなんじゃないかと思うよ。奇を衒うわけではなく、ただ外側の意志に縛られず、ワクワクすることを自由に追求したいってことさ。

アルバムには8曲しかないけれど、僕たちの成長、特に僕自身の成長が詰まっていて、この間ずっと僕を夢中にさせていたものの中にそれを見出せるし、曲が制作された時期によっても音楽へのアプローチの仕方もかなり違っていた。それが伝わるといいな。

では、それぞれの曲について話していこう。

全曲紹介 & オフェル・ピンハスによる解説

(1) מה יהיה עלינו (Ma Yihiye Aleinu)

最初はアルバムの表題曲。ユニゾンによる象徴的で耳に残るイントロがある。タイトルの英訳は「What will be the end with us」、つまり「私たちの結末はどうなってしまうのか」。
前作収録の名曲「מחול הטירוף(狂気のダンス)」を彷彿させる魅力的なグルーヴを持つ曲だが、マーシャル・ブハッシラ(Martial Bouhassira)による歌詞は珍しくフランス語で、性差別や自己中心主義、戦争に割かれるリソース、貧富の差の拡大といった社会問題に鋭く切り込んでおり、ヴォーカルのノア・カラダヴィド(Noa Karadavid)の表現にもラップに近しい新たな試みが見られる。一方でバンドのサウンドはバルカン音楽風の熱狂的なリズムの上でサックスやフルート、ベース、コーラスなどが複雑に絡み合いながら盛り上げていく。

ゲストでイスラエルを代表するジャズ・サックス奏者のダニエル・ザミール(Daniel Zamir)が参加。サックスとバス・クラリネットを吹いている。

O.P このタイトルは「私たちは最後にどうなっちゃうの」と皮肉を込めて言うときによく使われる表現だ。 実はこの曲は一番最後に書かれた曲で、もともとはアルバムの最後を飾る予定だった。でも周りのみんなからアルバムのオープニングにぴったりだって言われてね。リスナーを最初から引き込む曲だって。

この曲の背景にはユニークな話がある。オシ・マサラ(Oshi Massala)1と一緒に毎週スタジオで即興でアイデアを出し合うプロジェクトをしてたんだ…そこで生まれたクレイジーな音楽は結局はリリースされなかったんだけどね。
あるセッションで、この音楽的なモチーフを思いついて、それを中心にジャムを始めた。彼女がそれを聴いて、「これは完全にPinhas & Sons のものだね。このプロジェクトじゃない」と言ったんだよ。まったくその通りだと思ったから、そのまま放置して、それから特に具体的な計画は立ててなかった。

その後この曲は他の録音セッションの合間に発展していった。スタジオで他の録音をしている時に、このセッションを開いて、「ちょっとこれに即興で何かやってみない?」って感じでね。そして、その即興演奏を編集して、よりしっかりした形にしていった。

しばらくその状態のままだったんだけど、数ヶ月前の10月7日2以降、僕はこの曲を思い出して、この混乱の中で唯一の逃避場所になっていることに気づいたんだ。それで「Kama Shelo」と並行して作業を進めることにした。ひとつは深く悲しくて憂鬱な曲、もうひとつは極端に陽気な曲。

歌詞について気になるかもしれないけど、僕はこの曲には歌詞が必要だと感じた。でもヘブライ語や英語で書こうとすると、何か本質的なものが失われてしまうようにも感じた。この曲の本質は純粋な逃避で、ただ踊りたくなる曲であることなんだ。どんな物語やメッセージも、そのグルーヴから注意をそらしてしまうんだよ。だから、歌詞はあるけど、僕が理解できない言語で書くことにしたんだ。そうすれば音楽の邪魔にならないからね。

ちょうどその頃、偶然にも昔一緒に仕事をしたミックスエンジニアのマーシャル・ブハッシラ(Martial Bouhassira)に出会って、彼にフランス語の歌詞を書いてみないかと聞いてみたんだ。彼はイスラエルとフランスのヒップホップシーンでずっと働いていたからね。彼に「何についての曲?」って聞かれたけど「正直、それはどうでもいいんだ」って答えた。

彼は今日の世界を挑発するような、非常に皮肉な歌詞を書いた。つまり、若い頃のフランスでの生活は、ある意味ではもっと大変だったけど、今日よりもずっと“生き生き”としていて、質素で人間らしかったという内容なんだ。
この曲に取り組む際には、彼があるセクションを提案して、僕がそれをメロディに合わせ、音の響きや韻、リズムが曲にうまく合うかどうかを確認するという方法をとった。

そうやってこの曲が生まれたんだ……

(1)「מה יהיה עלינו」(私たちはどうなるの?)のMV。

(2) אין דבר (Ein Davar)

アラビックな曲調の(2)「אין דבר」(大丈夫)では、ベースのリオール・オゼリ(Lior Ozeri)のフレットレス・ベースが素晴らしい味を醸している。彼はこれまでに他のアーティストのサポートでフレットレスを弾くことはあったが、Pinhas & Sons の録音ではこれが初ではないだろうか。

前半はヴォーカルのノア・カラダヴィドの声の美しさ、ストリングスのアレンジの美しさに惹かれるが、中盤でプログレッシヴなリズムが提示され曲調はドラマティックに変化する。これはまるで人生のようだ──毎日は連続するが、明日何が起こるかはまったく、誰にも予想ができない。

O.P タイトルは「何もない」という意味にも、「どういたしまして」という意味にも訳せるヘブライ語のフレーズだよ。

この曲は実はアルバムのために最初に書かれた曲なんだ。最初のうちは、普段のクリエイティヴプロセスとは違うスタジオアルバムを作りたかった。普段は曲を書いて、リハーサルして、バンドとして一緒にアレンジして、しばらく演奏してから録音する。でも今回は、スタジオでの作曲に挑戦したかったんだ。楽譜を書かずに、ただ録音するだけでね。

それでエレズ・ユルヴィフ(Erez Yulevich)3にたどり着いたんだ。スタジオで一緒に実験してくれる人を探していて、彼が自分を推薦してくれたんだよ。彼の村の家には素晴らしいホームスタジオがあって、大きな窓から広がる草原が見えるんだ。これ以上ないほど完璧だった。何の音も録音するつもりもなく、彼の家に行って、壁に掛かっていたフレームドラムを手に取り、この曲の7/8+7/8+7/8+8/8というパターンを叩いたんだ。これは伝統的なモロッコ音楽に基づいている。そしてエレズがギターとサズ・ブッシュで深い雰囲気のある音を作り出し、その上でメロディや歌詞がどこに向かうかを考えたんだ。

(3) צניחה חופשית (Tzniha Hofshit / Free Falling)

(3)「צניחה חופשית」(自由落下)は信じ難いほどの音楽的な凄みを持った曲だ。楽曲自体の個性もそうだが、ストリングスやブラスなど各セクションのアレンジが素晴らしい。バラク・スラー(Barak Srour)のギターソロも従来の音楽の常識を打ち破るフレーズで、彼らの創造性が際立つ。音楽的な好奇心の頂点へと登ったような楽曲で、あらゆる瞬間がエキサイティングで刺激的だ。

O.P この曲はコロナ禍の間に書かれた。ファンキーなグルーヴを持っていて、歌詞なしでガイドを録音してAlaBabAlaプロジェクトのフォルダーにアップロードしたんだ。そこで皆んなからいろいろな提案をもらった。その中の一つがアヴィ・ローゼンフェルド(Avi Rosenfeld)の提案で、ロックダウン中に家に閉じ込められたカップルがお互いにイライラし合うというコンセプトだった。それが気に入って、そのアイディアを元に曲を作ったんだ。

面白いのはドラマーのシャロン・ペトロヴェール(Sharon Petrover)が録音したグルーヴが、最初に僕がイメージしていたものとはかなり違ったことかな。それを今聴くと、もう少し違ったアレンジにしただろうなと思うけど、それもまた良しって感じだね。

(3)「צניחה חופשית」(自由落下)のライヴ演奏動画

(4) 30 מקומות להיות בהם לפני שאתה מת (30 places to visit before you die)

2022年3月24日に先行してリリースされたシングル。目まぐるしく変化する譜割りと展開は狂気の沙汰だ。メインヴォーカルはオフェル・ピンハスが担い、ほかにアムハラ語4で歌うエチオピア系の女性シンガー、オシ・マサラ(Oshi Massala)と、レニングラード生まれの詩人/スポークンワード・ミュージシャンであるアリク・エベル(Arik Eber)がフィーチュアされている。ダナ・ロス(Dana Roth)が手がけたMVは歌詞の物語をアーティスティックに、ユーモアを交え表現している。

O.P これはかなりクレイジーな曲だ。エチオピアの雰囲気を持つクレイジーなモチーフをピアノで弾いてみたんだけど、リズム的に何が起こっているのか理解できなかった。それでチェリストの友人ガイ・エイロン(Guy Eylon)に送ってみたら、フレーズの中にグリッドの変更か何かテンポの変化があることを見抜いてくれたんだ。このモチーフにはエチオピアの雰囲気と西洋のハーモニーが組み合わさっていて、その小さなフレーズの中に緊張感があると感じた。だからこの曲全体のテーマにして、構造やハーモニーの変化、歌詞にもそのテーマを反映させたんだ。この曲は自分のルーツ、“本当の”自分を見つけようとする人についての曲で、彼は新しい生き方を試みている。でも、伝統と現代文明の両方に平和を見出したときに初めて、本当に家に帰ることができるんだよ。
このアイディアを音楽にどう伝えたかについて、いくつかのマスタークラス5を実際に開いたことがある。ちょっとやりすぎたけどね。

(4)「 30 מקומות להיות בהם לפני שאתה מת」(死ぬまでに行きたい30の場所)のMV。

(5) Snowflakes

“AlaBabAla”プロジェクトで制作が進められていた曲。9/8拍子を軸とした複雑なリズムだが妙な親しみやすさ、聴きやすさが彼ららしい。ノア・カラダヴィドによる美しい声がよくマッチしている。イントロはバンドの要の一人、リオール・オゼリのテクニカルかつ美しいベースの独壇場。

今作中唯一の英語詞。この一節がとても美しい:

翼は(君が言ったように)飛ぶためにある
恐れを克服してそれを広げよう
君の目は泣くかもしれない
君の口は嘘をつくかもしれない
でも真実は明るく澄んだまま

Snowflakes

O.P この曲の主題は、新型コロナが始まったときに生まれたんだ。これからどうなるんだろうという強い不安感があったのを覚えている。母の家にいて、人生のパートナーであるロナと一緒にいたんだけど、その重い心配からピアノに向かって弾き始めたんだ。ロナが知らないうちにそれを録音していて、その後、僕はこの曲に本当に心を奪われた。イントロは昔書いた作曲から取ったもので、これまでは発展させる方法が見つからなかったものだった。歌詞はガイ・エイロンと歌手のノアの助けを借りて書いたんだけど、夢が壊れたことへの和解について歌っている。元々作曲していたときの正確な雰囲気ではなかったけど、音楽には合っていると感じたんだ。

(6) דברי הימים (Chronicles)

(6)「דברי הימים」(Book of Chronicles)は2023年3月27日にリリースされた曲。やはり複雑だが美しいアレンジや仕掛けが楽曲全体に施されており、歌われている意味を分からずともPinhas & Sons の世界観を存分に楽しめる曲だが、オフェル・ピンハスが抽象的で重厚な歌詞とともにこの曲に込めた想いを知ることで、よりその深みを増す。

歌詞は現代を“干魃の日々”と喩え、奴隷と王の時代だと嘆く。人々の恐怖と不安に満ちた日々や崖っぷちの生活を憂い、権力による粗暴を強く批判する。最後の一節では絶望するかのように“もしこれが救いのロバに乗ったメシアの日々ならば、追放のほうが避難よりも良いかもしれない”と歌っている。
曲調だけを聴けば決して暗いものではないが、MVに表出したカオスや、ラストのフルートの壮絶なソロなどを聴けばこれが嘆き叫ぶ歌であると実感できると思う。

彼は激しい感情の中でこの曲を書いたとき、「この曲が世に出る頃には、それが遠い歴史のように感じられることを望んでいた」と語っていたが……、現実はそうはならなかった。

O.P この曲は、僕が最近まであまり表現したことのなかった感情や態度を表していると思う。
イスラエルが政治的危機に直面している間に書かれたもので、首相が汚職の罪に問われ6、ある政治的側面に対して公然と敵対し、扇動している状況だった。これまでデモに参加したことはなかったけど、その時は毎週、時にはそれ以上に政府に抗議するために街に出ていた。だからこの曲は、イスラエルの政治指導者に対する怒り、恥、憤りを表現するための叫びだった。

歌詞は聖書のスタイルで、叱責の予言として書かれている。今見ると、イスラエルの政治が一人の人物によって乗っ取られていることを考えると、まだまだ純真すぎると感じる。これは本当に悲劇的なことで、現在の大惨事による多くの苦しみを救えたかもしれないことなんだ。

(6)「דברי הימים」(歴代誌)。MVには生成AIが活用されており、その不気味さも彼らの心中の混乱を表現している。

(7) שיר קטן וחמוד (a small cute song)

オフェル・ピンハスがリード・ヴォーカルを担当。5拍子を軸とした複合変拍子だが、美しいメロディーの旋律を持ち、ファンクやジャズの要素をうまく馴染ませポップに仕上げている。Pinhas & Sons の“歌”の魅力について語るとき、ノア・カラダヴィドの美声が第一なのは言うまでもないが、この“もう一人のヴォーカリスト”の不思議な温かさと表現力を湛えた歌声も忘れてはいけない。

2:53からのギターソロのように聴こえるのは、バンドのヴァイオリニストであるエディー・レズニク(Eddie Reznik)による“ヴァイオリン・ソロ”だ。それまでジャズを愛好するクラシック・ヴァイオリニストだった彼は50歳でバンドのメンバーになり、クレイジーな才能を発揮した。

O.P ああ、僕はこの曲の書き方がすごく好きだ!エレズ・ユルヴィフと一緒に作業していると、彼が時々、自分で弾いた小さなスケッチをWhatsAppで送ってきて、それに対して僕がこうしたらどうかと返信することがある。
ある日、彼がこの曲のバックに流れるギターコードを送ってきたんだ。すぐに気に入って、そのコードに合わせて即興でメロディを作り、クリシェの歌詞をつけて彼に送り返したんだ。こんな風に作業するのはとても新鮮でクールだったから、そのまま続けていって、結果的にポップでジャズっぽいプログレッシヴな曲になった 🙂

(8) כמה שלא (Kama Shelo)

古い祈りの歌のようなラストの曲は、シンプルなフレーズを延々と繰り返し、徐々に深化させていくという従来のPinhas & Sons の楽曲にはまったく見られなかった構成となっている。

この曲からは彼らにはもうほとんど手に負えない、あまりに強大な力に対するやり場のない怒りのようなものが垣間見える。オフェル・ミズラヒ(Ofer Mizrahi)はほとんど嗚咽のようなトランペットのソロを吹く。ノア・カラダヴィドは、文字通り悲痛に叫び、泣く。

これは彼らを取り巻く状況や立場を、その絶望感とともに全世界のリスナーに伝える、今作のなかでも重要な意味をもつ楽曲だ。

O.P このフレーズの意味を正確に訳すのは難しいんだけど、「どんなに泣いても」という感じかな。
この曲は(6)「דברי הימים」の進化形と言えるかもしれない。僕は状況に絶望し、家が遠く離れてしまったと感じている。
(5)「Snowflakes」と同様に、イスラエルが内戦寸前の状態にあったときに非常に感情的な状態で作られた。テレビで抗議デモを見ながらピアノに向かって座り、この曲がそのまま生まれたんだ。
この曲には何かとても「シンプル」なものがあって、まるで古い賛美歌のように感じる。この曲を知っている人がいるかどうか、みんなに聞いて回ったのを覚えているよ。だって、誰かの曲を盗んだんじゃないか、このメロディーは既に存在しているんじゃないかと思ったからね。

おそらく自分が書いたすべての曲の中で、この曲が一番誇りに思えるものなんだ。こんなに少ない要素でこんなに深い感情を伝えられる曲は他にないし、多くの人がこの曲に感動したとメッセージをくれる。

録音するのは本当に大変だったよ。感情がむき出しになっているから、どの音や感情も少しでも不正確だとひどく間違って感じられるんだ。特に、中間部とエンディングのソロには苦労したよ。
最初は中間部にショファール7を使おうと思っていたんだ。ショファールはユダヤ教の特別な祈りで使われる宗教楽器で、ダニエル・ザミール(Daniel Zamir)にショファールを吹いてもらって録音した。彼は素晴らしい演奏をしてくれたけど、少し単調かなとも思った。それで、驚くべきギタリストのオフェル・ミズラヒ(Ofer Mizrahi)8に頼んでみた。彼はトランペットも独特のアプローチで演奏するんだ。ショファールに似たソロにしてほしいと彼に伝えたところ、それをそのまま録音してくれたんだ。

ノアのテイクは実はスケッチのテイクなんだ。下絵だから技術的には「最高」ではないけど、このテイクの素朴なアプローチが完璧で、感情を無理に込めようとせず、メロディーが自然に語りかけるような感じだった。

エンディングの録音は、絶対に忘れられない音楽セッションだった。いろいろなエンディングを試してみたけど、どれもしっくりこなかったんだ。それで、ノアにもう一度来てもらって、まったく違うエンディングを試してもらえないかとお願いしたんだ。彼女に防御も境界もなく、まるで裸で歌っているかのように歌ってほしいと言ったんだ。録音で聞こえるテイクは、二人とも涙を流しながら録音したもので、最後のサイクルでノアがほとんどうめき声を上げているのが聞こえると思うよ。

(8) כמה שלא(カマ・シェロ)

アルバムのジャケット・アートはシュロミ・イスラエル(Shlomi Israel)がスタジオの壁に実際に描いたもの。壁には“מה יהיה עלינו”(私たちの結末はどうなってしまうのか)と読める裂け目があり、その向こうには青い空と長閑な風景が広がっている。少女は壁のこちら側で、その向こうを眺めている。

  1. オシ・マサラ(Oshi Massala)…エチオピア生まれ、イスラエル在住のシンガーソングライター。今作では(4)「30 מקומות」でヴォーカルで参加している。 ↩︎
  2. 2024年10月7日…ハマスによるイスラエル奇襲の日を指す。 ↩︎
  3. エレズ・ユルヴィフ(Erez Yulevich)…ギタリスト/作編曲家。ボストンのバークリー音楽大学で映画音楽を専攻し、イスラエルのリモン音楽学校で教鞭をとっている。 ↩︎
  4. アムハラ語…エチオピアの事実上の公用語。 ↩︎
  5. 30 מקומות Project Breakdown…オフェル・ピンハスによる73分におよぶ楽曲解説動画を参照のこと。 ↩︎
  6. ネタニヤフ首相汚職疑惑…ベンヤミン・ネタニヤフは2020年1月に収賄や背任などの疑いで検察に起訴され、首相への就任は違法だとする申し立てが行われたが最高裁判所が棄却し、イスラエル議会の72人の議員がネタニヤフ支持を表明。5月に挙国一致内閣が発足した。この汚職疑惑は議会や国民の分断に今も尾を引いている。 ↩︎
  7. ショファール(shofar, שופר‎)…ユダヤ教の宗教行事で用いられる、ウシ科の動物クーズーの角で作られた楽器(角笛)。熟練すると参考動画のように音階を吹くこともできる。 ↩︎
  8. オフェル・ミズラヒ(Ofer Mizrahi)…自身で開発した“ホエール・ギター”の奏者として知られるが、トランペットの名人でもある。彼についての詳細はこちらの記事で。 ↩︎

Ofer Pinhas – piano (1, 2, 5, 7, 8), keyboards (3, 4), lead vocal (4, 7), extra vocals (1, 2, 3, 5, 6, 8)
Noa Karadavid – lead vocal (1, 2, 3, 5, 6, 8), extra vocals (4, 7)
Sharon Petrover – drums
Lior Ozeri – bass
Barak Sober – flute (1, 6, 7)
Jonathan Hadas – clarinet (1, 2, 3, 6, 7), flute (2, 3, 4)
Barak Srour – guitar (1, 2, 3, 4, 5, 6, 7)
Eddie Reznik – violin (1, 2, 3, 4, 5, 6, 7)
Daniel Tanchelson – viola (2, 3, 4, 5, 6, 7), strings (8)
Guy Eylon – cello (2, 3, 4, 5, 6, 7)

Erez Yulevich – guitars (2, 3, 5, 6, 7), sazbush (2)
Daniel Zamir – saxophones (1), bass clarinet (1)
Omer Idan – guitar (1)
Yanush Hurwitz – accordion (1)
Martial Bouhassira – voices (1)
Yshai Afterman – percussion (2, 5)
Osnat Harel – extra vocals (3)
Omer Elias – guitar (3)
Omri Abramov – saxophone (3, 4)
Lior Gray – saxophone (3, 4)
Tamar Karniel – saxophone (3, 4)
Itay Nativ – saxophone (3, 4)
Guy Milles – saxophone (3, 4)
Itamar Ben Yakir – trumpet (3, 4)
Ori Yossef – trumpet (3, 4)
Oshi Masala – vocal (4)
Arik Eber – vocal (4)
Ben Aylon – percussion (4)
Matan Arbel – percussion (4, 6, 7)
Oded Geizhals – marimba (4, 6)
Eyal Sela – flute (5)
Ofer Viflich – oud (5)
Nimrod Aviam – guitar (5)
Lailah Hadas – santur (5)
Yael Tzori – voices (8)
Ofer Mizrahi – trumpet (8)

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