歌手シルビア・ペレス・クルスとギター奏者フアン・ファルーのデュオ作
スペインを代表する歌手シルビア・ペレス・クルス(Sílvia Pérez Cruz)の新作『Lentamente』は、アルゼンチン最高のギター弾きのひとりであるフアン・ファルー(Juan Falú)との至上のデュオ作品となった。多くがアルゼンチンの作曲家たちの名曲のカヴァーで、一部にはブラジルの音楽、そして二人のオリジナルも1曲ずつ収録されている。
(1)「La Nostalgiosa」はフアンの叔父にあたるギタリスト/作曲家で、1960~70年代初頭にかけて200回以上の来日公演を行ったエドゥアルド・ファルー(Eduardo Falú, 1923 – 2013)の曲。原曲は少し陽気な印象も受けるアルゼンチン・サンバだが、ここではよりメロディーの美しさが際立つしっとりしたアレンジで演奏され歌われる。
アルゼンチン・フォルクローレを代表するアタウアルパ・ユパンキ(Atahualpa Yupanqui, 1908 – 1992)の曲は(3)「Chacarera de las Piedras」と(6)「Piedra y Camino」
(8)「Carinhoso」は多くのブラジル国民に愛されるピシンギーニャ(Pixinguinha, 1897 – 1973)の代表曲。このカヴァーは楽曲のアレンジ、歌の表現力ともに数ある同曲のカヴァーの中でも突出していると感じる。イントロ – A – A’ – B – 間奏(A) – Bというアレンジされた構成で、5分半近い長尺で演奏される。シルビアのヴォーカルの特に後半でのフェイクを含む歌唱の表現力は筆舌に尽くし難い素晴らしさだ。
ブラジルものではほかにカエターノ・ヴェローゾ(Caetano Veloso, 1942 – )の(5)「Sampa」が取り上げられており、いずれも原詞のポルトガル語で歌われている。
(9)「Oración del Remanso」はアルゼンチンのSSWホルヘ・ファンデルモーレ(Jorge Fandermole)の曲。1998年作曲と比較的新しい曲だが、既にクラシックスのようになっており多くのスペイン語圏のアーティストがカヴァーしている美しい名曲である。
ラストの(10)「Mi Última Canción Triste」はシルビアのオリジナル。タイトルの意味は“私の最後の哀歌”。これも美しいギターと歌唱を堪能でき、アルバムの締め括りに相応しい。
Sílvia Pérez Cruz 略歴
シルビア・ペレス・クルスは1983年スペイン・カタルーニャ州生まれ。母親は彼女にサックスとピアノの演奏、ダンスと彫刻を教え、父親は彼女にギターを教えた。カタルーニャ高等音楽院(ESMUC)ではピアノとサックスを学び、ジャズ・ヴォーカルで学位を取得。
2004年に女性4人でフラメンコ・ユニット、ラス・ミガス(Las Migas)を結成しヴォーカリストを担当。グループはその高い芸術性で Instituto de Juventud による「最高のフラメンコ・グループ」の賞を受賞するなどすぐに話題となり、シルビアも同国を代表する歌手として認知されるに至った。
2011年にソロ活動に専念するためラス・ミガスを脱退し、コントラバス奏者のハビエル・コリーナ(Javier Colina)との共同名義でアルバム『En La Imaginación』(2011年)を発表。
2018年には日本とスペインの国交樹立150周年を記念した日本企画のベスト盤も発売され、同年に初来日しブルーノート東京で公演を行った。
Juan Falú 略歴
フアン・ファルー(Juan Falú)は1948年アルゼンチン生まれのギタリスト/作曲家。父方の祖父母はシリアからの移民で、叔父は著名なフォルクローレのギタリストのエドゥアルド・ファルー(Eduardo Falú, 1923 – 2013)、父も本職は弁護士ながらギターの愛好家という音楽的に恵まれた環境で育った。16歳の時に地元の音楽コンクールで優勝したが、当時の軍政を嫌い1976年にブラジルに亡命。1984年までの8年間をブラジルで過ごした。
帰国後はクラシックやフォルクローレの演奏家として多数の音楽家と共演し、さらに音楽教育にも携わる。2000年には長年の功績が認められ、アルゼンチン文化省より「国家文化賞」を授与されている。また、世界最大級のギター・フェスティバルである「ギターラス・デル・ムンド(Guitarras del Mundo)」の総合監督を初回から務めている。
Sílvia Pérez Cruz – vocal
Juan Falú – guitar