カルロス・ビカが描き出すポルトガルの歴史絵巻
ポルトガルを代表するベーシスト/作曲家のカルロス・ビカ(Carlos Bica)の2024年新譜『11:11』は、久々にポルトガル出身者のみを集めたドラムレスのカルテットでの静謐で深みのあるアルバムだ。
カルテットはヴィブラフォンのエドゥアルド・カルディーニョ(Eduardo Cardinho)、アルトサックスのジョゼ・ソアレス(José Soares)、ギターとバンジョーのゴンサロ・ネト(Gonçalo Neto)との編成で、録音には長い時間がかかったという。演奏は抑制された静かな局面が多いが、内なる情熱を燃やしドラマティックな展開に至る場面では一気にヴォルテージも上がり強烈な即興アンサンブルが繰り広げられ、この感情のダイナミックレンジは本作の大きな魅力となっている。
アルバムには彼の社会に対する静かだが切実な願いも込められている。
2024年は、ポルトガルで半世紀近く続いた独裁体制をほぼ無血で倒し、民主主義国家としての道を拓いた「カーネーション革命」(独裁政権を倒し凱旋した兵士たちの銃口に赤いカーネションをさして祝福したことからこの名がついた)から50周年を迎える年でもある。(11)「A Noite」ではシンガーソングライター/俳優/活動家であるジョゼ・マリオ・ブランコ(José Mário Branco, 1942 – 2019)のアーカイブ録音が用いられ、民主主義を信じ戦うことを生涯忘れなかった彼のヒーローへの賛辞を表している。これは人々の多くが歴史から学ぶことを止めてしまった現代への彼なりの警鐘なのだろう。
Carlos Bica 略歴
カルロス・ビカは1958年ポルトガル・リスボン生まれのコントラバス奏者/作曲家。リスボンの音楽アカデミーとドイツ・ヴュルツブルクの音楽大学で学び、1985年頃より本格的な活動を開始し、さまざまなジャズバンドや室内楽オーケストラの編成に参加した。ダンス、演劇、映画といった様々なプロジェクトも並行するなど多作家として知られている。
ポルトガル史上最高のジャズ作品と絶賛された初リーダー作『Azul』(1996年)を始めとした多くのリーダー作のほか、カマネ(Camane)やマリア・ジョアン(Maria João)といった同郷の多くの歌手のサイドマンとしての活動によって国際的にも知られ、1998年と2016年には同国のミュージシャン・オブ・ジ・イヤーにも輝いた。
Carlos Bica – double bass
José Soares – alto saxophone
Eduardo Cardinho – vibraphone
Gonçalo Neto – guitar, banjo