ムニール・オッスン、「Black Room Sessions」のライヴ盤リリース
ブラジルの貧しいシングルマザーの家庭に生まれ、10歳からプロとして音楽活動を行い家計を支えてきたムニール・オッスン(Munir Hossn)が、ユニークなライヴ体験を提供する米国フロリダ州マイアミのブラック・ルーム・セッションズ(Black Room Sessions)での素晴らしい演奏を収録したライヴ盤『Munir Hossn & Elas (Live at the Black Room Sessions)』をリリースした。
ブラック・ルーム・セッションズはミュージシャンを360°観客が取り囲み、一部の奏者は観客の中に埋もれるような非常に一体感のあるステージ・レイアウトが特長で、観客も全員が最高の品質でライヴ演奏を楽しめるようにヘッドフォンを着用している。観客とミュージシャンとの距離は極限まで近く、まさに最高の没入感で音楽を楽しめる空間だ。
ムニール・オッスンはここで、すべてオリジナルの作詞作曲の曲を高度なベースとギターの演奏と柔和なヴォーカルで披露している。帯同するバンド「Elas」(=ポルトガル語で「彼女たち」)は才能あふれる5人の女性ミュージシャン。ドラムスのジッシー・ガルシア(Yissy Garcia)はキューバ生まれで、伝説的バンド、イラケレ(Irakere)の創立者のひとりであるベルナルド・ガルシア(Bernardo Garcia)の娘。同じくキューバ出身のフルートとコーラスを担当するマヘラ・エレラ(Magela Herrera)とパーカッションのジュージャ・ロドリゲス(Yuya Rodríguez)、他にマイアミ出身でロン・カーターやアンブローズ・アキンムシーレと共演歴のある鍵盤奏者フランチェスカ・ロメロ(Franchesca Romero)、同じくマイアミの鍵盤奏者/コーラスのアナ・パス(Ana Paz)という面子で、それぞれ個性と才能が際立つ演奏でバンドとしてのアンサンブルも超一流だ。
ムニール・オッスンはブラジル出身のため歌詞はポルトガル語だが、音楽のジャンルとしては上記のバンドメンバーの要素も加わっているためラテン・ジャズに近しいという不思議な状態となっているが、これも活動の幅の広いムニール・オッスンという音楽家の魅力のうちのひとつなのだろう。
ムニール・オッスンはエレガット、エレクトリック・ギター、5弦エレクトリック・ベースといった多様な楽器を操りながら、歌を歌う。そこには本質的な優しさや深い愛、そして誰からも愛されるユーモアが感じられ、それもまた彼の音楽家としての稀有な魅力となっている。
Munir Hossn 天性の音楽家の物語
ムニール・オッスンは1981年ブラジル・パラナ州マンダグアリ生まれ。アフリカ、レバノン、イタリア、そしてブラジル先住民族と入り組んだルーツをもつ家系で、母方の祖父や叔父はラジオ局のアナウンサーだった。
彼が生まれたとき既に父親は彼のもとにおらず、母親も仕事の最中はまだ幼いムニールを祖父に預け、祖父はラジオ・ディスコを彼の子供部屋にしたので、ムニールはカセットテープやレコードをおもちゃにして遊んで過ごしていたという。
6歳のとき、叔父は彼の人生を永遠に変えることになるアコースティック・ギターを彼にプレゼントした。
その後彼は母親が通う地元の教会の司祭に音楽の才能を認められ、教会が保有する楽器を自由に使わせてもらえるようになり、ドラム、キーボード、パーカッション、ギター、ベースといった担当者の代役を務められるようになった。
音楽に魅了され、周囲からも“神童”と呼ばれていたムニールは初等教育を完了しなかった。
10歳で彼は夜の街のクラブで演奏するバンドに加わった。
彼の母親が、息子が1週間以上学校に来ていないと気づいたのは彼女の兄が突然の死に直面し葬儀のために息子を学校から呼び戻す必要があるときだったという。彼女は息子がどこに行っているか知っている者はいないかと交友関係を訪ねてまわり、最終的に他のミュージシャンと一緒にガレージで練習している息子を見つけた──彼女は息子の耳を掴み家まで連れ戻したが、ムニールはその力を今も決して忘れていないという。
そんな事件があってしばらく経ってから、母親は息子に尋ねた。
「あんたは将来、一体どうしたいの!?」
息子ムニールの反応は明確だった。
「僕はもうミュージシャンだよ、お母さん」
その日以来、決してラジオから学ぶことを止めなかったムニールはわずか10歳で学校に通うことをやめ、11歳から家の家賃や生活費を負担した。
15歳ですでにブラジルの主要な演奏家のひとりとなった彼は、その後もエルメート・パスコール、ホベルト・メンデス、ダニエラ・メルクリ、ジルベルト・ジル、レニーニなどブラジルの音楽シーンの著名アーティストに同行し、主要なテレビ局にも出演。
22歳頃からスペインから国際的なキャリアも開始し、2007年にはフランスに移りジョー・ザヴィヌル・シンジケート、ディディエ・ロックウッド、ロベルト・フォンセカ、マイラ・アンドラーデ、イブラヒム・マアルーフなど世界的に有名なアーティストと共に世界中をツアーした。
地理的な距離のため、10代の頃を最後に母親に20年以上会えていないというムニール・オッスンだが、自分の音楽を世界に広め、家族により良い生活を送れるようにするという夢を今も追い続けている。
Munir Hossn – guitar, bass, vocal
Yuya Rodríguez – percussion
Franchesca Romero – piano
Ana Paz – keyboard, vocal
Magela Herrera – flute, vocal
Yissy Garcia – drums