ピアノとクラリネットの至高のアート・ジャズ。Pierre-François Blanchard 新譜『#puzzled』

Pierre-François Blanchard - Puzzled

ピエール=フランソワ・ブランシャール新作『#puzzled』

フランスのピアニスト/作曲家、ピエール=フランソワ・ブランシャール(Pierre-François Blanchard)の新作『#puzzled』。クラリネット奏者のトーマス・サヴィ(Thomas Savy)とともに、水鏡に映した自分自身との果てない対話のような哲学的な時間が流れる、とても美しい作品だ。

ピエール=フランソワ・ブランシャールのピアノも、トーマス・サヴィのクラリネットも、クラシックで培われた詩的な表現力が即興演奏の中で見事に現れている。アルバムは静謐で東欧的な雰囲気を湛えた(1)「Backtrack」で幕を開く。トーマス・サヴィはバスクラリネットを吹き、その広い音域と強弱表現を駆使して物語の起承転結を見事に表現している。そのクラリネットを“歌”と捉えるなら、ピエール=フランソワのピアノはその表現力を最大化する最高の歌伴として機能。たった二人の演奏だが、音楽の美しさが凝縮されたような演奏となっている。

つづく(2)「Fears」はタイトル通り鬼気迫るピアノが緊張感を孕んだ冒頭部から、その流れのまま劇的な展開を感じさせる構成で音楽は進んでいく。畳み掛けるような短調のコードチェンジはとても映像的だ。

(2)「Fears」

対位法を重視した(3)「C’est par où ?」もピエール=フランソワ・ブランシャールというピアニストの特長がよく現れている。(6)「Asmara」のような小曲も、場面転換の重要な曲として働いている。

このアルバムは二人の音楽や詩への情熱、探究心、思想的な旅、そしてそれらに導かれた気の遠くなるような努力が最高の形で結実した作品だと思う。

アルバム中唯一のソロピアノ曲(7)「Afterglow」

Pierre-François Blanchard 略歴

ピエール=フランソワ・ブランシャールは1981年フランス・ナント生まれで、10年間クラシック・ピアノを学んだ後、ジャズ・ピアニストとしての道を歩み始めた。2007年にハーグ王立音楽院に留学しジャズピアノの修士号を取得。2008年から2012年にかけてアズール・カルテット(Azure quartet)を結成し、オランダやラテンアメリカの多くのフェスティバルで演奏。同時期にYPFジャズコンクールのファイナリスト(2009年)、マーシャル・ソラルコンクールの準決勝進出者(2010年)となった。

2012年に、フランスを代表するシンガーソングライターであるピエール・バルー(Pierre Barouh, 1934 – 2016)の伴奏ピアニストとなり、歌の伴奏への情熱を復活させた。2016年12月にはトリアノン劇場で上演された「サラヴァ1」50周年記念公演の音楽共同監督を務めている。

歌手マリオン・ランパル(Marion Rampal)と共演した『Main Blue』(2017年)は特に高い評価を得ている。

Pierre-François Blanchard – piano
Thomas Savy – clarinet, bass clarinet

  1. サラヴァ(Saravah)…ピエール・バルーが1966年に創立したヨーロッパ最古のインディー・レーベル。元々は有名なフランス映画『男と女』の資金不足により誕生した即席の音楽出版社だったが、ブリジット・フォンテーヌ(Brigitte Fontaine)やジャック・イジュラン(Jacques Higelin)、ピエール・アケンダンゲ(Pierre Akendengue)といった素晴らしい才能に恵まれ、伝説的とも言える成功を残した。 ↩︎
Pierre-François Blanchard - Puzzled
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