フランスのピアニスト、バティスト・バイイ 会心の新作
フランスの気鋭ピアニスト/作曲家バティスト・バイイ(Baptiste Bailly)の新譜『La Fascinante』は、欧州や地中海周辺の伝統的な音楽の影響を幅広く織り交ぜた、繊細で詩的な素晴らしい音楽作品だ。非常に映像的、物語的な印象を受けるアルバムで、楽曲の多様性は地中海周辺を巡る旅路のようにも感じられる。
パーカッションによるアンソロジーが物語のドラマティックな導入となる(1)「Ritournelle」。既に世界観は確立されており、物語の語り部あるいは登場人物たるベースのエティエンヌ・ルナール(Étienne Renard)とドラムスのボデク・ヤンケ(Bodek Janke)とのアンサンブルも没入感が凄い。
アルバムの表題曲(2)「La Fascinante」はどこか浮ついた夢を見るような、不思議な郷愁を感じさせる。(4)「Cours Toujours」はアラビックな印象が強いが、どこか無国籍的な旋律が一際耳を惹く。
(5)「Atherfield」はアイルランドのアコーディオン奏者、アンディ・カッティング(Andy Cutting)のカヴァー。ゲスト参加するスペイン・バレンシア出身のマルチ撥弦楽器奏者エフレン・ロペス(Efrén López)による古楽器の演奏も相まって、ケルト音楽に影響を受けた不思議な質感のジャズを展開する。
スペインの詩人フェデリコ・ガルシア・ロルカ(Federico García Lorca, 1898 – 1936)へのトリビュートとして書かれた(6)「Agua, ¿Dónde Vas?」も美しい。タイトルは直訳すると“水、どこへ行くの?”の意味で、人間の心配や好奇心がどこへ向かうのかを、自然の力学に例えて表現している。
つづく(7)「Vie de Grenier」(屋根裏部屋の生活)ではエフレン・ロペスのフレットレスのガットギターが活躍。思い出の品物の埃と黴の匂いは、ここでは不快よりもノスタルジアが勝る。
Baptiste Bailly 略歴
バティスト・バイイは1992年にフランスのリヨン地方で生まれた。子供の頃はドラマーだったが、15歳のときに独学でピアノを始めた彼は、その後サン・テティエンヌ地方音楽院とディジョン地方音楽院で学び、スペインにも留学し様々なインスピレーションを得た。
2016年に初のアルバム『Diálogo con un Duende』をギタリストのダビド・ミンギヨン(David Minguillón)とのデュオでリリース。2019年にはピアノトリオ作『Pensión Almayer』をリリースし、その後も多様なプロジェクトで創作活動を行なっている。
Baptiste Bailly – piano
David Gadea – percussions
Bodek Janke – drums
Étienne Renard – double bass
Guest :
Efrén López – multi-instrumental