北欧の現代ジャズを象徴するシェーティル・ムレリド・トリオ 自由な表現を拡張した新譜『And Now』

Kjetil Mulelid Trio - And Now

革新的なスタイルで知られるノルウェーのピアニスト/作曲家、シェーティル・ムレリド(Kjetil Mulelid)のトリオによる4枚目のアルバム『And Now』がリリースされた。ピアノ、ダブルベース、ドラムスという一般的なピアノトリオ編成だが、手数の多い攻めのピアノ、ときにフリージャズを思わせる高次元の絡みを見せるアンサンブル、それでいて北欧らしい叙情性を失わない好盤となっている。

トリオのベーシストは、従来作品に参加していたビョルン・マリウス・ヘッゲ(Bjorn Marius Hegge)からルーノ・ネルゴール(Rune Nergaard)に交代。比較的主張するタイプのベース奏者である彼の存在によって、これまでの彼らの作品よりも創造的でエキサイティングな即興を楽しめる。トリオ初期からのドラマーであるアンドレアス・ウィンテル(Andreas Winther)のプレイもより抽象的になり、自由に空間を飾ってゆく。

(7)「Any Day Now」

自由度が増した分、楽曲の輪郭は曖昧となったが、真っ白なキャンパスに3人それぞれの絵の具を塗ってゆき、ひとつの作品に仕上げていく様子が楽しい。間違いなく言えることは、彼らには独自の美学と世界観があり、このアルバムも多くのリスナーにとって上質な時間を約束できる没入感に優れた音楽作品であろうということだ。

曲中で様々な表情を見せる美しい曲(1)「Age of Enlightenment / Parasite」、素朴で美しいメロディーを持つ(4)「The Greatest Love」、スコットランドのアイラ島の海岸の有名な”鳴き砂”をモチーフとした(5)「Singing Sands」、トリオの表現力の極みとも言える(7)「Any Day Now」などなど、聴きどころは満載だ。

Kjetil Mulelid 略歴

シェーティル・ムレリドは1991年にノルウェー南部のフルダル(Hurdal)に生まれた。

2016年に自身のトリオを結成。『Not Nearly Enough To Buy a House』(2017年)などの優れた作品をリリースし、欧州を中心に多くのツアーを行い、日本でも公演を行なっている。
2021年の自身初のソロアルバム『Piano』では、ベーゼンドルファーの92鍵のピアノを演奏し話題となった。

Kjetil Mulelid – piano
Rune Nergaard – double bass
Andreas Winther – drums

関連記事

Kjetil Mulelid Trio - And Now
Follow Música Terra