多文化共生のカナダ・トロントJAZZシーンを象徴する最強ピアノトリオ! Jeremy Ledbetter Trio

Jeremy Ledbetter Trio - Gravity

ジェレミー・レッドベター・トリオ『Gravity』

カナダ・トロントを拠点とするピアニスト/作曲家ジェレミー・レッドベター(Jeremy Ledbetter)率いるピアノトリオの2024年新譜『Gravity』。スナーキー・パピー(Snarky Puppy)のドラマーとして知られるラーネル・ルイス(Larnell Lewis)と、スティーヴ・コールマン(Steve Coleman)との活動で知られるベーシストのリッチ・ブラウン(Rich Brown)とのトリオで、2018年のデビュー作『Got a Light?』以来の新作だ。

アルバムを再生すると、彼らの高い音楽性と演奏技術からくるテクニカルなラテン・フュージョンの色合いを強く感じる。詳しくは後述するがジェレミー・レッドベターはかつて数年間をトリニダード・トバゴに居住し、そこでカリプソなどを深く学ぶなど、ラテン音楽は彼の血肉となっている。今作もそうした彼の音楽への強い好奇心と探究心が基底にあり、その上で自由闊達に無限の想像力を膨らませ、素晴らしい音楽を奏でている。

(1)「Flight」

アルバムに収録された珠玉の7曲はすべてジェレミー・レッドベターの作曲。高度な音楽理論と類稀な芸術的感性が掛け合わされると、これほどまでに生々しくプレイヤーたちの人間性が伝わってくる音楽が出来上がるのかと感嘆せずにはいられない。ジェレミーの作曲とピアノは知的で深い洞察力に満ちており、音楽だけではない彼の底知れぬ好奇心を露わに体現している。6弦エレクトリック・ベースを弾くリッチ・ブラウンは主役であるジェレミーを立てつつ、要所要所でその広い音域をセンスよく活用した卓越したソロでアンサンブルの完成度を数段引き上げている(“役割”を完全に理解しているベーシストは意外と貴重だ)。

ラーネル・ルイスのドラミングは驚異的だ。ピアノとベースにぴったりと寄り添うというよりは、完全に“一体化”しているようだ。手数とかそういう次元でドラムスを語ることが幼稚に感じるほど達観しており、まさに別次元の演奏を感じることができる。

本作は聴けば聴くほど、“21世紀初頭の最高のピアノトリオのひとつ”だという想いが確信に近づいていく。トロントの多文化共生の中で生き、学び、実演したジェレミー・レッドベターという音楽家の純粋な強さが凝縮されている。

(3)「Gravity」

ジェレミーにとって音楽とは、他の国や文化への入り口だった。(4)「Two Cousins」にはレゲエのリズムを重要なしるべとするが、それだけに留まらずに自身が体験してきたほかの音楽的な要素を様々に取り込んでいる。

宝石を散りばめたような夜空の表現で始まるバラード(5)「The Stars in Her Sky」も素晴らしい。ピアノの美しさもさることながら、リッチ・ブラウンが優しく奏でるメロディー・ラインは広大な世界へと想いを馳せるに相応しい演出だ。

(5)「The Stars in Her Sky」

ジェレミーがかつて住んでいたトリニダード・トバゴの首都の名を曲名に冠した(6)「Port of Spain」は同国生まれの楽器であるスティールパンの音色がピアノに重なり、南国の旅へと誘う。

(6)「Port of Spain」

Jeremy Ledbetter 略歴

作曲家/ピアニストのジェレミー・レッドベターはカナダ・オンタリオ州キッチナーで生まれ育った。最初の音楽的な啓示は3歳の時に家族と観たディズニーのアニメ映画『ファンタジア』だったという。オーケストラによるクラシック音楽に衝撃を受け、ベートーベン、モーツァルト、ラフマニノフ、ショパンなどを聴き、クラシックのピアノを習った。10代の頃にブルースに夢中になり、ある日カセットテープを買うために訪れた小さな音楽店で、間違ってブルースのコーナーに置かれていたオスカー・ピーターソンのアルバム『Night Train』を聴き、“ブルースを100万倍にしたような感じ”と衝撃を受け今度はジャズに夢中となり、その後トロントでジャズを学んだ。1999年にカナダの厳しい寒さから逃れるために南米の島国トリニダード・トバゴに移住。数年間カリブ音楽を学び演奏し、最終的にはカリプソの伝説的人物であるデヴィッド・ラダー(David Rudder)の作品のプロデューサー/ディレクターを務めるまでになった。

ジェレミー・レッドベターはその後キューバ、ニカラグア、ベネズエラ、ブラジルでの長期滞在を経て再びカナダに戻り、これらの遍歴が2005年にオリジナル曲を演奏するために結成したバンド、ケインファイア(CaneFire)のインスピレーションの源となった。ケインファイアでは『Kaiso Blue』(2005年)、『Pandemonium』(2010年)の2枚のアルバムをリリースし、その独創性と音楽性が高く評価された。

妻はベネズエラ生まれの歌手、エリアナ・クエバス(Eliana Cuevas)。

Jeremy Ledbetter – piano, keyboards
Rich Brown – electric bass
Larnell Lewis – drums

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