ダブルベースの革命家アダム・ベン・エズラ、孤高の極みに達する新譜『Heavy Drops』

Adam Ben Ezra - Heavy Drops

ベーシスト、アダム・ベン・エズラ 充実の新譜

卓越した個性的な技術でダブルベース(コントラバス)のソロ演奏に革命をもたらしたイスラエル出身のベーシスト/作曲家アダム・ベン・エズラ(Adam Ben Ezra)が、新作『Heavy Drops』をリリースした。今作はキューバ出身の打楽器奏者ミシャエル・オリべラ(Michael Olivera)を伴奏者に迎え、圧巻の技巧とグルーヴを堪能できる作品となっている。

アダム・ベン・エズラのベースはまさに究極的な職人芸だ。広く大衆ウケしないが、その楽器を少しでも知っていれば直ぐさま彼の技巧の虜になってしまうような類のもの。彼の凄さは映像や実演を伴うと理解しやすいから、ぜひここで紹介する動画も再生してみてほしい。

(1)「Heavy Drops」のソロ演奏。アルバムではドラムスが加わっているが、この動画では完全にベースのみで演奏される

アルバムの表題曲でもある(1)「Heavy Drops」は彼の真骨頂だ。コントラバス1という楽器のポテンシャルを最大限に発揮しており、ベース、メロディー、和音といった音楽表現を弦で演奏するだけでなく、それと同時に本来は共鳴を目的とした楽器の胴の部分をパーカッションとして叩きまくり、一人であらゆるパートをやってのける。さらにアルバム収録版では鍵盤やフルート(これらもアダム自身の演奏)の多重録音やドラムスも加わり音楽的な完成度を高めている。彼の驚くべき才能を確かめるには十二分すぎる内容だ。

タイトル通りクールにグルーヴする(2)「Play It Cool」、明るく疾走する(5)「Free Fly」、クラシカルで厳粛な雰囲気をもったベースのみのソロ演奏(7)「Portrait of Natalie」、スパニッシュな(8)「Taming the Bull」なども特徴的。

(9)「Escape Route」はルート(根音)2を避けることをコンセプトとしており、ベースという楽器に一般的に期待される役割に対して、挑戦的なテーマを提示している。

(9)「Escape Route」

Adam Ben Ezra 略歴

アダム・ベン・エズラ(ヘブライ語表記:אדם בן עזרא)はイスラエルのテルアビブに1982年に生まれた。5歳でヴァイオリン、9歳でギター、16歳でエレクトリックベース、その後ダブルベース(コントラバス)に転向。ほぼ独学で楽器演奏から作曲まで独自のアプローチでスキルを磨いてきた。

アダムはダブルベース1本でメロディ、ベースライン、パーカッションを同時に演奏する驚異的な演奏技術で知られている。2014年に世界中の驚異的なベーシストを紹介するYouTubeチャンネル「BassTheWorld.com」で公開された「Can’t Stop Running」の動画が世界的な注目を集め、400万回以上の再生回数を記録(この総再生回数は同チャンネルにおいて2025年2月現在もモヒニ・デイに続き2位)。このパフォーマンスは彼の革新的な奏法と音楽的才能を広く知らしめるきっかけとなった。

アダム・ベン・エズラのブレイクのきっかけとなった「Can’t Stop Running」の動画

彼の音楽スタイルは多岐にわたり、ジャズ、フラメンコ、中東音楽などさまざまな影響を受けている。「Flamenco」ではフラメンコのリズムやギター奏法をベース演奏に取り入れ、独自の躍動感を表現する。また、ベースだけでなくピアノ、ウード、フルート、クラリネットなどの楽器も演奏し、マルチ・インストゥルメンタリストとしての才能も発揮する。

これまでにパット・メセニー(Pat Metheny)、ヴィクター・ウッテン(Victor Wooten)、リチャード・ボナ(Richard Bona)といった著名アーティストとも共演し、イスラエルを代表する国際的な音楽家としての地位を確立している。

Adam Ben Ezra – double bass, keyboards, vocals, flute
Michael Olivera Garcia – drums, percussion

Omer Mor – electric guitar (2)

  1. コントラバス(contrabass)…オーケストラやジャズなどで最低音を受け持つ楽器。一般的に弓(アルコ奏法)または指(ピッツィカート奏法)で演奏される。楽器自体の呼称としてコントラバス、ダブルベース、アップライトベース、アコースティックベース、ウッドベース、弦バスなど様々な呼び方が存在するが、すべてこの楽器を指す。 ↩︎
  2. ルート(route, 根音)…コード(和音)の最低音。ルートを弾くことは、音楽の安定感を示すために低音を担うベースの最も基本的な役割である。 ↩︎

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