内省と解放を繰り返す美しい欧州ジャズ。日系ベルギー人ピアニスト、アレックス・クーの音楽

Alex Koo - Blame It on My Chromosomes

日系ベルギー人ピアニスト、アレックス・クー新譜

ベルギー人の父親と日本人の母親を持つベルギーのピアニスト、アレックス・クー(Alex Koo)の新作『Blame It on My Chromosomes』。長年共演してきたベースのレンナルト・ヘインデルス(Lennart Heyndels)とドラマーのドレ・パレマールツ(Dré Pallemaerts)とのトリオ編成を軸に、2曲では米国の人気トランペット奏者のアンブローズ・アキンムシーレ(Ambrose Akinmusire)がゲスト参加した充実の作品となっている。

従来のアルバムでは現代音楽、アンビエント、エレクトロニックといった要素を自身のジャズ表現の中に積極的に組み込み、高い評価を得てきたアレックス・クーだが、今作はアコースティックのピアノトリオによる演奏表現に没頭。彼自身が「ジャズミュージシャンとして落ち込まない唯一の方法は、音楽に没頭し、自分を解放すること」と語るように、キャンバスに自由に音を広げ、曲によってはピアノを弾くだけでなく歌も用い、自己療法的な表現を積み重ねてゆく。

口笛や歌も印象的で、映画のような雰囲気を纏う(2)「Eagle of the Sun」

アルバムに収録された10曲はすべてアレックス・クーのオリジナル。クラシックや現代音楽の影響の色濃いハーモニーやリズム感覚を持ちながら、即興によって自在に世界観を広げていく演奏が美しい。

注目のゲストであるアンブローズ・アキンムシーレは(1)「Hey Man, We Should Play Sometime」と(9)「Jonass」でトランペットを聴かせてくれる。後者は悲劇的に亡くなったアレックスの幼馴染であるJonasという人物に捧げられており、彼も大きく影響を受けたというその破天荒な生き方への賞賛と追悼が音楽によく表れている。

ラストの(10)「Blame It on My Chromosomes」ではレンナルト・ヘインデルスの思索的なダブルベースが冒頭で主役となり、豊かなハーモニーに乗せた抒情的な演奏が繰り広げられる。

Alex Koo 略歴

アレックス・クーはベルギーの西フランダース生まれのピアニスト/作曲家。父親は1970年代に日本に派遣されたベルギー人宣教師、母親は日本人の平和活動家という家庭に育ち、幼い頃から音楽の教育を受けた。クラシックピアノを5歳の頃から始め、10代でジャズに魅了され、アムステルダム、コペンハーゲン、ニューヨークで学び、フルブライト奨学金を得てジャズ作曲の修士号を取得。現在はベルギーのLUCA芸術学校でジャズピアノを教えている。

彼の音楽はジャズ、ミニマリズム、映画音楽、アンビエント、ネオクラシックが混ざり合った独創的なものと評される。ドビュッシーやサティ、ショパンといったクラシックの影響と、キース・ジャレットやビル・エヴァンス、ブラッド・メルドーなどジャズの巨匠たちからの要素を融合させ、思索的かつ情熱的な独自のスタイルを築いた。

これまでの代表作に、サックス奏者のマーク・ターナー(Mark Turner)らと共演した『Appleblueseagreen』(2019年)、クラシックとジャズの斬新な融合を表現した『Etudes for Piano』(2023年)などがある。これまでにプリンセス・クリスティーナ・コンクール1位、B-Jazz最優秀作曲賞などを受賞。

Alex Koo – piano, voice
Lennart Heyndels – double bass
Dré Pallemaerts – drums

Guest :
Ambrose Akinmusire – trumpet (1, 9)

Alex Koo - Blame It on My Chromosomes
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