アスリートとしてW杯4回優勝経験をもつ女性SSW、内面の苦悩を吐露するエモロック

Karen Jonz - GUIZMO

レジェンド Karen Jonz、優れたポップ感覚を披露する『GUIZMO』

ブラジルのシンガーソングライター、カレン・ジョンス(Karen Jonz)の新作『GUIZMO』。ポルトガル語で歌われている以外はサンバやボサノヴァといった所謂“ブラジルらしさ”はほぼ感じられないが、優れたポップ感覚を持ったブラジリアン・ロックの好盤だ。

それだけであればわざわざ当サイトで取り上げることはないのだが、今回は少しばかり事情が違う。まず、彼女の経歴を調べてみて驚いた。彼女を世界的に有名にしているのは、この作品でやっているような自作曲をギターを弾きながら力強く歌うミュージシャンとしてではなく、イノベーティヴなアスリートとしての姿だった。

カレン・ジョンスはプロのスケートボードの選手で、とりわけ“バート”と呼ばれる垂直に近いランプで行われる競技“バーチカル”の先駆的な女性だった。アメリカで開催されるエクストリーム・スポーツの世界大会「X Games」で女子バートで優勝(2008年)、スケートボードのワールドカップ(World Cup Skateboarding, WCS)の女子バーチカルクラスで4回優勝(2006, 2008, 2013, 2014年)し、まだ記憶に新しい2024年のパリ・オリンピックではスケートボードのパーク競技の開会式でスピーチを行うという、まさにこの競技のレジェンドであるという。

アルバムを聴くとあまりにミュージシャンとして完成度が高いので、そうした背景があることに純粋な驚きを覚えてしまうが、彼女の楽曲のミュージック・ヴィデオ(MV)を見ると、思わず「なるほど…」となる。

(2)「SUPERFICIAL」のMV。バーチカルのランプで撮影されている。

夫はポルト・アレグレの人気バンド、フレズノ(Fresno)のヴォーカリストであるルーカス・シルヴェイラ(Lucas Silveira)。今作ではすべての曲で彼がカレン・ジョンスの共作者としてクレジットされている。

(9)「TRAÇO TÓXICO」のMV。やはりバーチカルのランプで撮影されている

アスリートであり、芸術家であるカレン・ジョンスの挑戦

今作でカレン・ジョンスは自己破壊、死、不在、再生といったテーマを取り上げ、自身のキャリアと芸術的アイデンティティについての成熟したヴィジョンを提示している。

彼女が競技を始めた2000年代の始めは、スケートボードにおいて女性は目立たない存在だった。彼女が最初に出場したトーナメントは男子に混ざっての出場で、2006年にワールドカップで初優勝したときも報道は男子の結果のみだったという。こうした経験が“困難を切り拓く”彼女自身のアイデンティティを育んでいったことは間違いない。音楽を作ることを心から愛しているという彼女は、女性スケートボード、鬱病の克服、本物であることの探求など、自身の半生における挑戦についてを今作の一貫したテーマとしている。そこから感じ取れるのは、信念を持ち続け、ひとつのことを継続し続けることへの苦悩と、その大切さだ。

サウンド面ではシューゲイザー、ロック、エモなどのジャンルの要素を取り入れており、より誠実に内面を曝け出した前作『Papel de Carta』(2022年)と比べ、幾分ポップな仕上がりとなっている。

(7)「MEU FÔLEGO」のMV。これもまたバーチカルのランプが舞台となっている

Karen Jonz - GUIZMO
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