アメリカ発、熟練のタンゴ楽団コンフント・ベレティンの新作
アメリカ合衆国オレゴン州ポートランドを拠点に20年以上活動するタンゴ・アンサンブル、コンフント・ベレティン(Conjunto Berretin)の2025年新譜『La Mariposa』は、伝統的なアルゼンチン・タンゴを軸に、ジャズやクラシックの音楽的な要素が絶妙にブレンドされたなんとも魅力的な作品だ。
アルバムにはペドロ・マフィア(Pedro Maffia, 1899 – 1967)作曲の(1)「La Mariposa」やアドルフォ・アビレス(Adolfo Avilés, 1898 – 1971)作曲の(6)「Cicatrices」、アグスティン・バルディ(Agustín Bardi, 1884 – 1941)作曲の(9)「Gallo Ciego」といったアルゼンチン・タンゴの黄金期の名曲を多数収録。ピアノ、ベース、バンドネオン、ヴァイオリン、そしてヴォーカルという編成でシンプルだが豊かな情感を湛えた演奏を展開する。アレンジは古典的で驚きはないが、特にピアノ、ヴァイオリン、バンドネオンなどの丁寧で情緒的な演奏は多くの人にとって感情移入のしやすい音楽だろうと思う。
演奏はスタッカートとレガートのメリハリが美しく、打楽器奏者のいない編成にも拘らず極めてダンサブル。ミーガン・ヴォルスター(Megan Vorster)によるヴォーカルも深淵な響き。アンサンブルは熟練しており、いつの間にかその世界観に惹き込まれてしまう。
クラシカルなタンゴの魅力にあらためて気づかせてくれる良作だ。
Conjunto Berretin 略歴
コンフント・ベレティンは2001年にアメリカのバンドネオン奏者アレックス・クレブス(Alex Krebs)によって結成されたアルゼンチン・タンゴのバンド。アレックスはタンゴ音楽とダンスに深い情熱を持つ音楽家で、タンゴの本場アルゼンチンでの経験を基に、アメリカで本格的なタンゴ・アンサンブルを創設することを目指した。グループ名「Berretin」は“強い欲望”や“情熱的な衝動”を意味するアルゼンチンのスラング「berretín」に由来しており、タンゴ文化そのものを象徴する言葉として選ばれている。
結成当初はアレックスを中心に少人数の編成で活動を開始し、主に地元オレゴン州ポートランドのタンゴ・コミュニティで演奏を行い、伝統的なタンゴを演奏しつつ、ダンサーたちが求めるリズムとエネルギーを重視したスタイルを確立していった。2003年には初のアルバム『Conjunto Berretin』をリリースし、アメリカのタンゴシーンで注目を集めた。
2000年代中盤から2010年にかけて、彼らはメンバー構成を拡大し、より洗練されたサウンドを追求し始める。この時期に加入したのがジャズを音楽的背景に持つピアニストのアンドリュー・オリヴァー(Andrew Oliver)や、クラシックの技巧に長けたヴァイオリン奏者のエリン・ファービー(Erin Furbee)といった才能あるミュージシャンで、バンドの音楽的な幅が拡張された。
2010年代にはヴォーカルのミーガン・ヴォルスター(Megan Vorster)が加わり、現在のコアメンバーがほぼ完成。この時期、彼らの音楽はダンスフロアでの実用性だけでなく、コンサートホールでのリスニング体験にも重点を置くようになり、より幅広い聴衆にアピールするようになった。
2015年にリリースされたアルバム『El Fuego Nuevo』は、タンゴの伝統と革新のバランスが絶妙で、特に“プグリエーセのような情熱とダリエンソのような推進力”を併せ持つと称賛されている。この時期にはアメリカ国内だけでなく、ヨーロッパや南米のタンゴイベントにも招待されるようになり、国際的な認知度を獲得。ポートランドを拠点としながらも、タンゴのグローバルなコミュニティに貢献する存在となっていった。
Conjunto Berretin :
Alex Krebs – bandoneon
Andrew Oliver – piano
Megan Vorster – vocals
Erin Furbee – violin
Benjamin Gifford – bass
Obadiah Wright – bandoneon