楽曲ごとに様々な表情を見せる傑作、タル・ヤハロム『 Mirror Image』
創造的でアグレッシヴな2013年結成のジャズ/プログレバンド、カダワ（Kadawa）のギタリストであり、優れた作曲家であるタル・ヤハロム（Tal Yahalom）が自身初のリーダー作『Mirror Image』をリリースした。バンドはクインテット編成だが、各メンバーの楽器の持ち替えや、曲ごとに多ジャンルに渡る音楽性によって非常に多様な音楽を楽しめる作品となっている。
後述する1曲を除き、すべてタル・ヤハロムの作曲。彼の探求心や創造力が存分に発揮された楽曲が楽しい。幕開け(1)「Prelude」はクラシックギターの確かな基礎と、ジャズの即興性によって具現化したあまりに美しい前奏曲で、これから始まる物語への期待を膨らませてくれる。
引き続きクラシックギター（ガットギター）のイントロに導かれる(2)「Hymn for Tomorrow」は夢幻の世界を映し出す名演。キューバ系アメリカ人のサックス奏者、デヴィッド・レオン（David Leon）、弦楽四重奏団ベルガモット・カルテット（Bergamot Quartet）のメンバーでアジア系のチェリスト、アイリーン・ハン（Irene Han）、同じくベルガモット・カルテットでも活躍するヴァイオリニストのリーダー・フィンク（Ledah Finck）、そしてブラジル出身の打楽器奏者ホジェリオ・ボッカート（Rogerio Boccato）という国際色豊かなカルテットの潜在力は、もはや爆発寸前だ。
(3)「KIM」、そして(4)「Tri-Tonal」は作曲とアレンジ、そして演奏面でも彼らの真骨頂と言える。音楽的に高度なテクニックをリアルタイムで積み重ねていく演奏は圧巻で、知性と感性の両方を大いに刺激する。
驚くほど繊細な表現を披露する(5)「Sleepless」も美しい。アルバムの他の楽曲にも言えることだが、独創的な表現で尖った自身のバンド、Kadawaではあまり見せないタル・ヤハロムのルーツ的な断片が垣間見える。
今作中で唯一のカヴァー曲である(6)「Chorinho for Tati」は、アルメニアのピアニスト/作曲家のヴァルダン・オヴセピアン（Vardan Ovsepian）がブラジルの歌手タチアナ・パーハ（Tatiana Parra）のために書いたショーロの曲で、アルバム『Lighthouse』（2014）に収録されていたもの。ここではデヴィッド・レオンがフルートを吹き、ホジェリオ・ボッカートは前半部でパンデイロを演奏。タル・ヤハロムはガットギターで軽やかに美しくバッキングとソロをこなす。彼のギターは6弦だが、ブラジルで多用される7弦ギターのバイシャリーア（baixaria）の奏法も取り入れたであろうバッキングが巧みで素晴らしい。
Tal Yahalom 略歴
タル・ヤハロムは1992年にイスラエルで生まれたギタリスト/作曲家。幼少期からクラシックギターを学び、その後ジャズやロックに傾倒。ハードバップ、印象派クラシック、オルタナティヴ・ロックなど幅広い影響を受けている。演奏スタイルも幅広く、エレクトリック、アコースティック、ナイロン弦と多様なギターを操り、音色の探求に強いこだわりを持つ。2013年にテルアビブでアルモグ・シャルヴィット（Almog Sharvit, b）とベン・シラシ（Ben Silashi, ds）とともにカダワ（Kadawa）を結成。バンドは全員が2014年にアメリカに移住し、ニューヨーク・ブルックリンを拠点にユニークな音楽活動を行なっている。
2019年のハービー・ハンコック・インスティテュート・オブ・ジャズ国際ギターコンクールで準決勝に進出し、2015年のデトロイト・ジャズ・フェスティバル全国ギターコンクールで1位、2016年のモントルー・ジャズ・フェスティバル国際ギターコンクールで3位を獲得。
ソロプロジェクトや他のアンサンブル（トリオやクインテット）でも活動し、現在もNYを拠点に国際的なキャリアを展開中。
Tal Yahalom – electric guitar, nylon string guitar
Ledah Finck – violin
Irene Han – cello
David Leon – alto saxophone, flute
Rogerio Boccato – drums, percussion