“人生のサウンドトラック” ニルス・クーゲルマン・トリオ 2nd
ドイツのベーシスト/作曲家ニルス・クーゲルマン(Nils Kugelmann)が、“人生のサウンドトラック”をテーマに据えた第2作目『Life Score』をACTレーベルよりリリースした。高く評価された前作『Stormy Beauty』と同様、ピアノにルカ・ザンビート(Luca Zambito)、ドラムスにセバスチャン・ヴォルフグルーバー(Sebastian Wolfgruber)とのトリオで、より緻密で力強く物語性のある現代ジャズを聴かせてくれる秀逸な作品に仕上がっている。
伝統的なジャズの概念に捉われず、自らの感性や創造性に正直に、常に音楽を前進させようとする姿勢が顕著に表れている。収録曲はすべてニルス・クーゲルマンの作曲で、彼の人生で起こったあらゆる瞬間にインスパイアされた楽曲群はそれぞれ感情の起伏を見事に反映しており、活き活きとした躍動感に満ちている。
おそらく、彼の哲学は人生を肯定的に捉え、あらゆる挑戦を最終的には受容する性質があるように思う。こういうポジティヴな音楽は聴いていて気持ちがいい。(1)「A Good Day」は短調で、アレンジや弾き方によってはいくらでも陰鬱にできそうな曲だが、明るい音色のピアノ(ヤマハの楽器のようだ)や、ジャズとしては比較的シンプルで明瞭なリズムを叩くドラムスの貢献によって、ドラマティックに人生の一場面を切り取ったような爽快さを醸し出す。これはリスナーを彼らの世界観に惹き込む、アルバムの最高の幕開けだ。
(3)「Coffee in the Rain」は今作のリード・トラックだ。“雨の中のコーヒー”というシチュエーションも哲学的なようでいて実は深い意味もなさそうで、なんだかとても良い。キャッチーなメロディーとリズムは、三位一体のこのトリオの真骨頂だ。
ニルス・クーゲルマン・トリオの第1作は新型コロナによるパンデミックの渦中で制作されたため、ライヴなどを通した楽曲の練り込みが充分にできなかったという。それに対し今作はたくさんのライヴ・コンサートを行い、トリオの絆や楽曲も深化した状態でスタジオ録音に臨むことができたようだ。とりわけ(2)「Turtles and Cocktails」や(9)「Dark Light」はエクアドルへのコンサートツアーで立ち寄ったガラパゴス諸島での体験を反映したもので、前者は巨大なカメなどを見た日中、そしてトランプやカクテルを楽しんだ夜の想い出を、そして後者はガラパゴスでの夏の夜の静けさと精神的な浄化をコーラスも交えて表現したものとなっている。
Nils Kugelmann – double bass
Luca Zambito – piano
Sebastian Wolfgruber – drums