エストニア出身、ラージアンサンブルの新星ラーヘル・タルツ。その成熟を示す絶品新譜

Rahel Talts - New and Familiar

Rahel Talts 3rdアルバム『New and Familiar』

エストニア出身のピアニスト/作編曲家ラーヘル・タルツ(Rahel Talts)は、クラシックとジャズ、そして北欧の民族音楽に根差した音楽家として注目すべき新星だ。彼女は2025年リリースの新作『New and Familiar』で、エストニア、デンマーク、リトアニア、ポーランドの出身者から成る14人編成のアンサンブルを率い、知性と感性の見事な調和を示す彼女自身の才能と、それを極めて美しく具現化するバンドメンバーたちとの強い絆を証明してみせている。

(1)「Meie Elu」はルドルフ・トビアス(Rudolf Tobias, 1873 – 1918)によって1915年に書かれた古いエストニア民謡をベースにしている。デンマークの新世代ジャズ・ヴォーカリストとして大きな注目を浴びるカルメン・ロイヴァセップ(Karmen Rõivassepp)の魅力的な声が主導的な役割を果たし、北欧の伝統音楽に特徴的な魅力ある旋律を9/4拍子で歌うが、アドリブのパートになると南米・ブラジルやアルゼンチンの現代ジャズ・ヴォーカルを彷彿させる爽やかな浮遊感も心地よい。バックの弦楽四重奏や、デンマークの若手ギタリスト、ヤコブ・ユルサ(Jacob Djursaa)のプレイも素晴らしい。

(1)「Meie Elu」

文学的な素養が疾走感の中に滲む今作のリード・トラックのひとつ(2)「Restless」以降の7曲は、すべてラーヘル・タルツのオリジナル。印象的なソロを吹くサックスはリトアニア出身の気鋭ドナタス・ペトレイキス(Donatas Petreikis)。

(2)「Restless」

“対話”を抽象的に表現する組曲形式の(3)-(6)「Conversations」には、様々な音楽的展開が含まれている。リズムの劇的な変化、ソリスト同士の即興の掛け合い、起承転結を図らずとも表す魅力的な楽曲群で、決してキャッチーではないかもしれないが、この組曲は今作の精神的な軸として機能している。

極めつけはラストの(8)「New and Familiar」だ。これはまだ20代後半のラーヘル・タルツの驚くべき才能が凝縮された10分超の大作で、その緻密な楽曲からは過ぎ去った日々への少しのノスタルジーと、来るべき未来への無邪気な希望が感じられ、胸を締め付けられる。

(8)「New and Familiar」

Rahel Talts 略歴

ラーヘル・タルツは1996年エストニア生まれのピアニスト/作曲家。バルト海のパルヌ湾沿いにあるエストニア屈指のリゾート都市パルヌ(Pärnu)で育ち、6歳からクラシックピアノを始め、14歳でクラシックピアノを専攻し音楽学校を卒業し、その後ジャズピアノと作曲へと転向した。

彼女は2018年にタリン音楽大学でポピュラー/ジャズ・ピアノを学び、その後デンマークに移住してジャズと作曲の学びを続け、2023年にはデンマーク国立音楽アカデミーでジャズピアノと作曲の修士号を取得している。

14人のミュージシャンで編成されるアンサンブルを率い、2022年にアルバム『Power of Thought』でデビュー。翌2023年に『Greener Grass』をリリースしており、今作は3作目の作品となっている。

Karmen Rõivassepp – vocal
Rahel Talts – piano
Jakob Sørensen – trumpet, flugelhorn
Donatas Petreikis – saxophones, flute
Linda-Anette Verte – violin
Egert Leinsaar – violin
Sandra Klimaitė – viola
Theodor Sink – cello
Jacob Djursaa – guitar
Mariusz Praśniewski – double bass
Jesper Lørup Christensen – drums
Kasper Grøn – percussion
Mads Haupt Clausen – trombone (5, 6)
Ernesta Vauraitė – piccolo (7)

Rahel Talts - New and Familiar
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