アフリカとジャズを再び繋ぐ。セネガル出身ベーシスト、アルネ・ワデ『New African Orleans』

Alune Wade - New African Orleans

アフリカン・ディアスポラたちの歴史と精神から生まれた音楽

セネガル出身のベーシスト/作曲家アルネ・ワデ(Alune Wade)は、新作『New African Orleans』で、タイトルが象徴するようにジャズの発祥地ニューオーリンズと、アフリカ文化との繋がりを探求している。本作は単なる音楽ジャンルや文化の融合ではなく、アフリカとそのディアスポラの歴史、魂、そしてレジリエンスを讃える対話だ。

アルバムのコンセプトは、ワデが2014年に主催した「Jazz à Gorée Festival」で芽生えた。アフリカからアメリカへ音楽の流れを逆転させるという彼のヴィジョンは、セネガルのリズムがニューオーリンズのコンゴ・スクエア1で響き合った歴史を現代に蘇らせた。コンゴ・スクエアは、奴隷たちが音楽とダンスで文化を繋ぎとめた聖地のような場所であり、ジャズのルーツとして知られる。アルネ・ワデは、セネガル軍のブラスバンド隊のフレンチホルン奏者だった父セリーニュ・ファルー・ワデ(Serigne Fallou Wade)から受け継いだブラスバンドへの愛を基に、このアルバムでアフロビート、ジュジュ、ブギウギ、ジャズなどを融合。パリ、ダカール、ラゴス、ニューオーリンズで録音された12曲は、大西洋を挟んだ両大陸の音楽的遺産に新たらな文化的視点を与えている。

アルバムは、オリジナル曲と大胆なカヴァーによって絶妙にバランスされている。
リードシングル(2)「Boogie and Juju」は、ナイジェリアのジュジュ音楽とニューオーリンズのブギーがシンクロペイテッドなリズムで融け合う。トランペッターのアンドリュー・バハム(Andrew baham)が率いるブラスセクションがエネルギーを注入している。(6)「From Congo to Square」では、ルワンダとウガンダにルーツを持ち、人類学やアフリカン・アートの研究家としても知られるNYの歌手ソーミ(Somi)が参加し、コンゴ・スクエアの歴史を情感豊かに歌い上げる。

(2)「Boogie and Juju」

多様なカヴァー曲も見逃せない。ジミ・ヘンドリックス(Jimi Hendrix)の(4)「Voodoo Child」やフェラ・クティ(Fela Kuti)の(5)「Water No Get Enemy」は、アフロジャズのグルーヴで再解釈され、ニューオーリンズのサイケデリックな色彩とアフリカのスピリチュアルな深みを融合。ハービー・ハンコック(Herbie Hancock)の(10)「Watermelon Man」やドクター・ジョン(Dr. John)の(3)「Gris-Gris Gumbo Ya Ya」は、ワデの故郷とニューオーリンズのスピリチュアルな繋がりを強調する。
オリジナル曲(8)「Same Fufu」や(1)「Night Tripper」では、食や旅を通じて両大陸のホスピタリティと普遍性を讃えている。

アルバムにはニューオーリンズのジャズドラマーハーリン・ライリー(Herlin Riley)、ナイジェリアのトーキングドラム奏者オラオレ・ムイワ・アヤンデジ(Olaore Muyiwa Ayandeji)、セネガルの歌手ジュリア・サール(Julia Sarr)など、両大陸からトップミュージシャンたちが参加。アルネ・ワデのベースラインは、テクニカルでありながら感情豊かで、アンサンブルに込められた豊かな精神性を引き立てる。

(10)「Watermelon Man」

Alune Wade 略歴

アルネ・ワデは1978年セネガルの首都ダカール生まれ。父はセネガル軍のブラスバンドのフレンチホルン奏者で、作曲家としても活動した音楽家で、その父の影響でアルネも幼少期から音楽に親しんだ。10代でベースを始め、セネガルの伝統音楽とジャズ、ファンクを融合させた独自のスタイルを確立。2000年代初頭、セネガル出身の国際的スター、ユッスー・ンドゥール(Youssou N’Dour)のバンドに参加し注目を集めた。

2006年、初のソロアルバム『Mbolo』をリリース。アフリカのリズムとジャズの即興性を融合させ、高い評価を得る。その後、ジョー・ザヴィヌル、マーカス・ミラー、ボビー・マクファーリンらと共演し、ワールドミュージックシーンでの地位を固めた。2011年のアルバム『Ayo Nene』では、セネガルのウォロフ文化と現代ジャズを深く探求。2015年にはキューバ出身のピアニスト、アロルド・ロペス・ヌッサ(Harold López-Nussa)との共作で『Havana-Paris-Dakar』を発表し、アフロキューバン音楽とセネガル音楽の架け橋を築いた。
現在はフランス・パリを拠点に活動しつつ、ダカールやラゴス、ニューオーリンズで録音を行うなど、グローバルな創作活動を続けている。

Alune Wade – vocals, bass, keyboards
Cédric Duchemann – keyboards
Kyle A. Roussel – piano, organ
Alix Goffic – drums
Herlin Riley – drums
Andrew baham – trumpet
Victor Ademofe – trumpet
Camille Passeri – trumpet
Yehmi Olutosin – baritone saxophone, trombone
Stephen Walker – trombone
Harry Ahonlonsou – tenor saxophone
Kirk Joseph – sousaphone
Hugues Mayot – bass clarinet
Olaore Muyiwa Ayandeji – talking drum
Victor Ademofe – talking drums
Weedie Braimah – percussions
Julia Sarr – backing vocals
Olyza Zamati – backing vocals

Guest :
Somi – vocal (6)

  1. コンゴ・スクエア(Congo Square)…ニューオーリンズ市内のトレメ地域に存在する広場の名称。この広場でかつて展開された音楽の演奏がジャズの誕生につながったと言われている。当初はかつて「黒人の広場 (Place de Negroes)」と呼ばれており、1803年にルイジアナ州が米国領になる以前から、黒人たちがここに集まり、青空市場を開き打楽器を鳴らしてダンスに興じていた。 ↩︎

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