文化的ジャズの極み。女流ピアノ奏者シモーナ・プレマッツィ×頭脳派サックス奏者カイル・ナッサー新譜

Premazzi Nasser Quartet - From What I Recall

プレマッツィ&ナッサー『From What I Recall』

イタリア出身の女性ピアニスト/作曲家シモーナ・プレマッツィ(Simona Premazzi)と米国ボストン出身の男性サックス奏者/作曲家カイル・ナッサー(Kyle Nasser)を中心に、ベーシストのノア・ガラベディアン(Noah Garabedian)、ドラマーのジェイ・ソウヤー(Jay Sawyer)で構成されたカルテット、Premazzi / Nasser Quartet の初のアルバム『From What I Recall』は、ヨーロピアン・ジャズとハードバップの丁度良いバランスを自然に探求するような上質なジャズ作品だ。

アルバムは11曲、合計64分間ほどで構成されており、全曲がシモーナ・プレマッツィもしくはカイル・ナッサーによるオリジナル。
二人は過去10年間ほど共に演奏活動を続けていたが、やがて二人のパートナーシップを称え、その音楽的な集大成を作るという構想を抱き、2021年に正式にカルテットを結成。ほかの多くの欧州出身のジャズ・ミュージシャンと同じように西洋クラシック音楽の影響を強く受けたシモーナ、熱烈な創造性と都会的な芸術性を持ち合わせたカイルという二つの感性の融合が生み出す類稀なジャズの空間を形成した。

(1)「Iacchus」

その完成度はおそろしく高く、知的好奇心を強くくすぐる。
本作はシモーナ・プレマッツィとカイル・ナッサーの双頭名義の作品ではあるが、ベースのアルメニア系アメリカ人ノア・ガラベディアン、ドラムスのミシガン州出身ジェイ・ソウヤーの見せ場も多く、カルテットの技量も芸術性も相当なもの。オーセンティックなジャズのスタイルを基軸としながら、クラシックを始めとした多様な文化が溶け込み、それを優雅にスタイリッシュに見せる。

とかく音楽に派手さや分かりやすさが求められる近年の風潮に反し、彼らの音楽はどこまでも真摯で、作為のない無邪気な好奇心と、静かだが確かな情熱に満ちている。
その奥底にあるのは、彼らの“心”だ。

Simona Premazzi 略歴

ピアニストのシモーナ・プレマッツィは1975年イタリア・ミラノ近郊出身。9歳からクラシックピアノを学び、ミラノのジュゼッペ・ヴェルディ音楽院で研鑽を積んだ後、ジャズに転向。2004年に米国に移住し、ジャズシーンで活動を開始。奨学金を得てバークリー音楽大学で学び、ニューヨークのニュースクールでジャズと現代音楽の学位を取得している。

ジョー・サンダース(Joe Sanders, b)とアリ・ホーニグ(Ari Hoenig, ds)とのトリオ編成によるデビューアルバム『Looking For An Exit』(2007年)は高く評価され、日本の雑誌『ジャズ批評』で2004年から2008年にかけてリリースされたトリオアルバムの中で最高の一枚に選出された。

Kyle Nasser 略歴

サックス奏者のカイル・ナッサーは1982年アメリカ合衆国マサチューセッツ州ボストン生まれ。ハーバード大学で社会学を学び、卒業後にバークリー音楽大学でジャズを専攻し、音楽の道に進む。以降ニューヨークを拠点に活動し、古典的な形式と技法をジャズの言語、そしてロックやR&Bの感性とシームレスに融合させていることで際立っている。

リーダー作としてはデビュー作『Restive Soul』(2015年)を始めこれまでに3枚のアルバムをリリース。

Kyle Nasser – saxophones
Simona Premazzi – piano
Noah Garabedian – bass
Jay Sawyer – drums

Premazzi Nasser Quartet - From What I Recall
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