ペルシャとクルドにルーツを持つ新星SSWエラナ・サッソン、伝統文化と現代ジャズを繋ぐ美しい対話

Elana Sasson - In Between

クルド系女性SSW、エラナ・サッソン 注目の新譜『In Between』

ペルシャとクルドをルーツに持つ、アメリカ生まれ・スペイン在住の歌手/作曲家エラナ・サッソン(Elana Sasson)の2作目のアルバム『In Between』は、自身のルーツである中東音楽をベースに、現代ジャズやラテン、地中海音楽の要素も交えた作品。バンドはコロンビア出身のピアニスト、サンティアゴ・ベルテル(Santiago Bertel)、キプロス出身のベース奏者マノス・ストラティス(Manos Stratis)、そしてベルギー出身のドラムス奏者ヴィクトール・ゴルトシュミット(Victor Goldschmidt)の国際色豊かなトリオ編成を中心としており、穏やかなジャズに乗せて歌う抒情詩のような美しさが印象的なアルバムとなっている。

7拍子の(1)「Akh Leil」はクルドの伝統的なラブソング。ここでは豊かなジャズ・アレンジと、中間部ではフランス出身のマチュー・サグリオ(Matthieu Saglio)によるチェロのソロもフィーチュアされ、今作の神秘的で美しい印象を決定づける導入となっている。

(1)「Akh Leil」

(2)「Bahari Digar」はイラン・テヘラン出身のカーヴェ・サルヴァリアン(Kaveh Sarvarian)によるネイの演奏が印象的。この曲はペルシャを代表する女性詩人フォルーグ・ファッロフザード1にインスパイアされており、ネイの音色がエラナの透き通ったヴォーカルと絡み合い、郷愁と疎外感を表現する。

(6)「Elaneven」にはボスニア・ヘルツェゴビナのサラエヴォ出身のトランペット奏者ミロン・ラファイロヴィッチ(Miron Rafajlovic)がゲスト参加している。激情のトランペットには、やはり紛争で故郷を追われ、カナダやスペインに移り住むこととなったトランペット奏者の生き方が強く表れている。

(9)「Hêvî」のライブ

アルバムのタイトルには、ペルシャとクルドの血を引き、西洋の文脈の中で育ち、伝統と現代性、文化の東西、帰属意識への憧れの間で常に葛藤を抱えてきた彼女の想いが反映されている。
「長年、“故郷”という概念に悩み続けてきましたが、今では音楽がそれを私に与えてくれたと感じています」エラナ・サッソンはそう語る。「このアルバムは、その“狭間”を、混乱の場としてではなく、対照的なものが出会い、新たな意味が生まれる豊かで表現力豊かな空間として捉えています」

Elana Sasson 略歴

エレナ・サッソンはイランとクルディスタン2にルーツを持つアメリカの作詞作曲家/歌手。サンフランシスコ・ベイエリアで生まれ育ち、ペルシャやクルド地域の伝統音楽を現代ジャズやラテンリズムと融合させた音楽で注目を集めている。

2022年に修士号取得のためにスペインのバレンシアに移り、バークリー音楽大学のバレンシア・キャンパスで学んだ。現在もバレンシアを拠点として活動している。

2024年にデビューアルバム『Golestan』をリリースし、2025年4月18日には2ndアルバム『In Between』を PKMusik から発表しました。彼女の音楽は、文化的アイデンティティや所属感の探求をテーマにしており、Songlines Magazine から「心を奪うほど美しい」と称賛された。

Elana Sasson – vocal
Santiago Bertel – piano
Manos Stratis – double bass
Victor Goldschmidt – drums

Guests :
Matthieu Saglio – cello
Kaveh Sarvarian – ney, tombak
Miron Rafajlovic – trumpet

  1. フォルーグ・ファッロフザード(Forūgh Farrokhzād, 1936 – 1967)…イランの詩人・映画監督。ペルシャ現代文学に変革をもたらし、もっとも優れた女性詩人の一人とみなされている。彼女は大胆に女性の声を主張する詩を書いたため、しばしば社会的な論議を呼んだ。ドキュメンタリー映画『家は黒い』は国際映画祭で受賞をしている。1967年、交通事故により32歳の若さで死去。 ↩︎
  2. クルディスタン(Kurdistan)…「クルド人の地」を意味する中東北部の一地域。トルコ東部、イラク北部、イラン西部、シリア北部とアルメニアの一部分にまたがり、ザグロス山脈とタウルス山脈の東部延長部分を包含する、伝統的に主としてクルド人が居住する地理的領域のこと。 ↩︎

関連記事

Elana Sasson - In Between
Follow Música Terra