ベトナム系スーパーギタリスト、グェン・レ。独自の感性で綴る奇矯ジャズ『Silk and Sand』

Nguyên Lê - Silk and Sand

多文化ジャズの申し子グェン・レ、久々のギタートリオ作

ベトナム系フランス人ギタリスト、グェン・レ(Nguyên Lê)の新生トリオによる新作『Silk and Sand』。ベースにカナダ出身のクリス・ジェニングス(Chris Jennings)、パーカッションにモロッコ出身のラーニ・クリージャ(Rhani Krija)という俊英を迎え、アジアのテイストが感じられる彼らしい特別なギタージャズ/フュージョンを展開する。

(1)「Red City」から、グェン・レらしい軽めのクランチ・サウンドが絶好調だ。独学のギタリストであり、誰にも似ていない彼のプレイに思わずニヤリとしてしまう。さまざまなパーカッションを重ねるラーニ・クリージャはアフリカ的でもありアジア的でもあり、グェン・レの特徴的なフレージングやヴォイスとの相乗効果で無国籍感を演出。
タイトル曲(2)「Silk and Sand」は、やはり東アジアの絹が砂漠をわたってアラブ地域、欧州へと行き着く様を想起させる。アラブ系のパーカッションに11拍子のリズムは遥か長く困難な道のりや活気に満ちた異国の市場だ。

(3)「Onety-One」というタイトルからは古代の数学者たちへの純粋な問いかけも滲む。
それは「11」をなぜ「onety-one」ではなく「eleven」と表すのか、という“当たり前への疑問”だ。
東洋は古代より10進数体系で発展したが、メソポタミア文明を築いたシュメール人は12進数や60進数にこだわった。1から12までの数字を特別な単語で表すのは現在もヨーロッパ系の言語で見られる。グェン・レは欧州に住むベトナムの民として、そうした文化の違いをユニークに描き出してみせる。

(3)「Onety-One」のMVは、サイケデリックな映像も印象深い。

アルバムには数名のゲストが彩りを添える。
(4)「Moonstone」にはサラエボ出身のミロン・ラファイロヴィッチ(Miron Rafajlovic)がトランペットとフリューゲルホルンで参加。
(6)「Baraka」ではカメルーン出身のベーシスト、エティエンヌ・ムバッペ(Etienne Mbappé)がエレクトリック・ベースで参加。クリス・ジェニングスがダブルベースで低音を支え、ムバッペはグェン・レとのメロディーのユニゾンや中間部での卓越したベースソロを披露する。

フランスのフルート奏者シルヴァン・バロウ(Sylvain Barou)は(7)「Thar Desert Dawn」でインドの竹笛バンスリを、(9)「Becoming Water」ではアルメニアのダブルリードの木管楽器ドゥドゥクを演奏している。

Nguyên Lê 略歴

グェン・レはベトナム人の両親のもと、1959年にフランス・パリで生まれた。10代で最初にドラムスを、次にギターやベースを独学で習得したが、学生時代の専攻は美術と哲学で、音楽のキャリアはその後に歩み始めている。

1990年にマーク・ジョンソン(Marc Johnson)やピーター・アースキン(Peter Erskine)らと共演したアルバム『Miracles』でデビュー。
1995年の『Million Waves』以来、ドイツのACTレーベルから数多くのアルバムを出しており、伝統的なベトナム音楽とジャズを融合した『Tales from Vietnam』(1996年)、ビートルズやレッド・ツェッペリン、スティーヴィー・ワンダーなどを再解釈した『Songs of Freedom』(2011年)、ヴェトナム出身の歌手/伝統弦楽器奏者ンゴ・ホン・クワン(Ngô Hồng Quang)との双頭名義作『Ha Nội Duo』など独自の感性で綴られる作品群は高く評価されている。

Nguyên Lê – guitar, synths (3, 6), vocals (1, 6)
Chris Jennings – acoustic bass
Rhani Krija – percussion, gumbri (6) vocals (1, 6)

Guests :
Sylvain Barou – bansuri flute (7), duduk (9)
Miron Rafajlovic – trumpet & flugelhorn (4)
Etienne Mbappé – electric bass (6)

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