Josyara 3rdアルバム『AVIA』
傑出した新世代のシンガーソングライターであり、パーカッシヴな演奏が高く評価されるギタリストであり、ブラジル北東部(ノルデスチ)の音楽シーンで独自の存在感を示すアーティストであるジョシアラ(Josyara)による3枚目のアルバム『AVIA』がリリースされた。物語を紡ぐように流れる全10曲はどれも素晴らしく、アフロブラジル音楽の新たな傑作と呼ぶべき高い完成度を誇る作品だ。
『AVIA』というアルバム・タイトルは、「進む」「急ぐ」「完了する」「流れる」といった意味を持つブラジル・ポルトガル語の北東部の方言に由来する。彼女はこのタイトルについて“前進し実現する”という意味を込めたと語っており、アルバム全体が愛、別れ、情熱、郷愁といった普遍的で人間的なテーマを扱っている。アルバムのナラティヴは曲の順序によってひとつのストーリーを紡ぐように設計されており、恋の始まりから挫折、自己発見、再生といったサイクルを描いている。“アルバム”の概念自体が薄れている現代において、アーティストが意図した曲順で聴くように推奨されていることも特徴的な稀有な作品となっている。
音楽は、ジョシアラによる卓越したガットギターの演奏とソウルフルなヴォーカルを中心に構成されている。(1)「Eu Gosto Assim」はサンパウロのSSWアネリス・アサンプサン(Anelis Assumpção)のカヴァーだが、パーカッシヴで技巧的なギターを中心としたアレンジはジョシアラが表現する世界観の導入としては完璧だ。
つづく変拍子の(2)「Seiva」はジョシアラとイアラ・ヘンノ(Iara Renno)の共作で、女性の視点から情熱的に描いた快楽と欲望を表現した自由で過激な歌詞が特徴。ジョシアラのオリジナルである(3)「Festa Nada a Ver」では激しい恋愛の終焉と、それに伴う失望をテーマとしている。リリカルな表現を主題とするが、リズムには本能的な衝動が感じられる。
(4)「Ensacado」は先駆的な女性SSWカチア・ヂ・フランサ(Cátia de França)のカヴァー。ここではジョシアラとピッチ(Pitty)の力強いデュエットが光る。
(5)「Corredeiras」は自由な精神と前進する意志を象徴する曲で、馬が駆けるイメージがインスピレーションの源となったジョシアラのオリジナル。楽曲のアレンジは本作随一の拘りが込められ、ストリングスやブラスを交えたアレンジが秀逸だ。
(6)「Sobre Nós」もピッチとの情熱的な共作・共演で、アルバムの中では場面転換を導く役割を果たしている。
(7)「De Samba Em Samba」は一転して伝統的なサンバの様式となる。カヴァキーニョ/パーカッションにチアゴ・ダ・セヒーニャ(Tiago da Serrinha)、7弦ギターのカルリーニョス・セッチ・コルダス(Carlinhos 7 Cordas)、打楽器のカイナン・ド・ジェージ(Kainã do Jêje)らによるアンサンブルはつづく小品(8)「Prova De Amor」でも魅力的に響く。
(9)「Peixe Coração」はブラジルのクィア・ミュージシャンの代表格であるリニケル(Liniker)との共作。詩的で抽象的な愛の表現が特徴的で、アルバムの中でももっとも超越的な雰囲気を持つ。
ラストの(10)「Oasis (a duna e o vento)」はチコ・チコ(Tico Tico)との親密なデュエットで、アルバムを甘く締めくくる。
Josyara 略歴
ジョシアラ、本名ジョシアラ・リラ(Josyara Lira)は、1988年にブラジル・バイーア州ジュアゼイロに生まれた。幼少期から音楽に親しみ、バイーアの豊かな文化とノルデスチの伝統音楽に影響を受けた彼女はギターを独学で習得し、パーカッシブな演奏スタイルを確立。地元の音楽コミュニティで活動を始め、10代後半から本格的に音楽の道を歩み始めた。
2011年にバイーア州最大の都市サルヴァドールに移り、バイーア連邦大学(UFBA)で音楽を学びながら音楽活動を行い、地元のライブシーンで注目を集める。2012年に初のEP『Josyara』を自主制作でリリース。シンプルなギターと声を中心としたアコースティックなサウンドで、バイーアの風土や個人的な感情を歌い上げるスタイルが早くも評価される。2016年にはシングル「Rota de Colisão」を発表し、MPBと現代的な感性を融合させた作風で聴衆を魅了。
2018年に初のフルアルバム『Mansa Fúria』をリリース。このアルバムは、ジョシアラの内省的な歌詞とパーカッシブなギターが際立つ作品で高く評価され、ブラジルの音楽賞「Prêmio da Música Brasileira」にノミネートされたことで全国的な知名度を獲得。北東部の音楽的ルーツと現代的なアレンジを融合させ、ジョアン・ジルベルトやカエターノ・ヴェローゾといった巨匠の影響を感じさせつつも独自の声を確立する。
2022年には2枚目のアルバム『ÀdeusdarÁ』をリリース。より洗練されたプロダクションと、多様なリズムやコラボレーションを取り入れ、MPBやサンバ、ノルデスチの要素を深化させた。このアルバムでは女性としての視点や社会的なテーマも織り交ぜ、批評家から「現代MPBの新たな旗手」と称される。2024年にはEP『Mandinga Multiplicação – Josyara canta Timbalada』をリリースし、バイーアの伝説的な音楽集団チンバラーダ(Timbalada)の楽曲を再解釈。アシェ(Axé)音楽へのオマージュとして話題を集める。
2025年にリリースされた3枚目のアルバム『AVIA』は、ジョシアラのキャリアの集大成とも言える作品だ。リニケル、ピッチ、ジュリアナ・リニャーレスといった女性アーティストとのコラボレーションを特徴とし、愛や別れ、自己発見をテーマにしたストーリーテリングが評価される。パーカッシブなギターと温かみのあるプロダクションで、MPBやサンバの枠を超えた普遍的な魅力を放つ。アルバムのリリースに伴い、サンパウロやビトリアでのライブパフォーマンスも成功を収め、Coala Festivalなど大型フェスへの出演も決定した。
ジョシアラは、2024年のWME Awardsで「最優秀インストゥルメンタリスト」を受賞し、ギタリストとしての技術も高く評価される。彼女の音楽はバイーアの文化的ルーツと現代的な感性を橋渡しし、女性の視点や感情を力強く表現する。SpotifyやYouTubeでのストリーミング数は増加傾向にあり、ブラジル国内外でファンベースを拡大中。